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アマーリエ働く

 翌朝、窓の外を見ると雲一つない快晴だったので、オーレルは朝からさわやかな気分になった。


「おはよう、オーレル。今日もいい天気だね」


 オーレルが自分の部屋から出ると、朝から元気なアマーリエの姿があった。


「おはよう。この天気のおかげで朝から気分がいいよ。お腹も空いたし、朝ごはんにしようか」

「いいね、そうしましょう。さっきからお腹が鳴って、何か食べたいと思っていたところなの」


 さっそくオーレルは台所に向かい、家に残っているもので昨日のようなスープをつくった。その他には、余っていたパンを食べることにした。


「ふう、おいしかった。オーレルの料理はおいしいね」

「ありがとう。一人暮らしで、毎日自分でご飯をつくっているから、それなりに料理の腕も上達したのかな。でも、このスープだったら誰でも簡単においしくつくれると思うよ」

「そうなの? それじゃあ、今度は私がつくるよ。オーレルにばかり料理をしてもらうのも悪いしね」

「それは楽しみだな」


 オーレルとアマーリエは朝食を食べ終わり、店の開店準備を始めた。まずはアマーリエに仕事を教えることから始めた。といっても、特に難しい仕事はない。商品の並べ方やお客さんへの対応の仕方などを教えた。

 アマーリエは飲み込みが早く、あっという間に仕事を一通り覚えてしまった。


 そうこうしているうちに、開店時間になっていた。オーレルは入り口の看板を営業中に変えた。このとき外の通りにはまばらに人々が行き来していた。

 開店直後こそ客は来なかったが、数十分ほど経過して客が入るようになってきた。客は冒険者がほとんどだ。


「ここがブラッドの言っていた武器屋か。あいつはこの町で一番の武器屋だと言って

いたが……おお! この剣はよさそうだな」


 店に入ってくるなり、入り口近くに置いていた剣に目をつけ、手に取ってじっくり見ている男がいた。どうやら、ブラッドの紹介で来たようだ。ありがたいことにブラッドは冒険者仲間にオーレルの店のことを広めてくれているようで、最近はこの男のような客も増えている。


「もしかして、あんたがこの店の店主か? こんな美人なエルフの嬢ちゃんがこの店の店主だなんて、ブラッドの野郎は一言も言ってなかったな。くっ、こんなにいい店があったなんてもっと早く知りたかったぜ」


 ブラッドの紹介で来た男は近くにいたアマーリエのことを店主だと勘違いしたらしい。


「ありがとうございます。ですが、私はこの店で今日から働き始めた者で、アマーリエと言います。この店の店主は向こうにいるオーレルです」

「おお、そうだったのか。よろしくな、アマーリエさん。それにしても、この剣気に入ったんだが、いくらなんだ?」

「ええっと、こちらは大銀貨2枚になります」

「大銀貨2枚か。思ったよりも安いな」


 男は懐から大銀貨2枚を出し、満足そうにしていた。


「次からこの店で武器を買うようにするから、よろしくな」

「はい、お待ちしております」


 男が店から出ていくと、入れ替わるように新たな客がやってきた。今度の客はオーレルのよく知る人物だった。


「オーレルさん、こんにちは。お金がたまったので新しい武器を買いに来ました」


 まだブラッドのように冒険者が板についてない、いかにも駆け出しの冒険者風の少年で、名はクラウスだ。クラウスは冒険者になってからまだ一年も経っていない人物で、最初にこの店で武器を購入して以来、武器を買うときはいつもここで買ってくれている。


「クラウス、今日も元気そうだね。最近、調子はどうだい?」

「聞いてくださいよ、オーレルさん! 実はですね、昨日冒険者ランクがEからDに上がったんですよ」


 クラウスはよほどそのことがうれしかったのだろう、今まで見たことのないほどテンションが高かった。冒険者ランクとは、冒険者の実力に合わせて決まるもので、S、A、B、C、D、Eの六段階がある。これは冒険者ギルドという国境を越えた組織が定めたもので、ある一定の強さのモンスターを倒すことによって、ランクが上がっていく。


「おおー、それはおめでとう。これで初心冒険者からは卒業だね」

「そうです。これでまた一歩一人前の冒険者に近づきました」

 クラウスは誇らしげに胸を張っていた。

「ということで、冒険者ランクも上がって、お金もたまったので武器を買いに来たんですけど……ところで、向こうにいる美人なエルフの方は何者ですか? 見たところお客さんではないようですが」


 先ほどからちらちらとどこかを見ていたが、アマーリエのことが気になっていたようだ。


「ああ、彼女はアマーリエといって、今日からここで働いてもらっているんだ」

 

 このとき、ちょうどアマーリエがオーレルのところへやって来た。


「アーノルドさんという方がオーレルに用があると言っているよ」


 オーレルはアーノルドに武器の相談を受けていて、彼の要望に沿うような剣を仕入れたことを思い出した。


「そうだった。それじゃあ、僕はアーノルドさんの相手をするから、アマーリエにはこっちのクラウスの相手をしてもらっていいかな?」

「わかった。――こんにちは、クラウスさん。どんな武器をお望みですか?」

 アマーリエに話しかけられたクラウスは照れたように顔を赤くしていた。

「は、はい、ええーっと、今日は杖を買いに来ました。」


 なんだか受け答えがぎこちなかった。その様子を横目で見ながら、オーレルはアーノルドのもとへ向かった。


「こんにちは、アーノルドさん。お望み通りのものを仕入れたので、今持ってきますね」

「おお、オーレル。そいつは楽しみだ」


 オーレルは急いで、アーノルドが所望する武器を持ってきた。それは、刃渡りの長い大剣だった。

 アーノルドが以前使っていた武器は彼の身長と同じくらいの大きさの剣だったそうだ。ちなみに、彼の身長は二メートル近くある。


 その剣は昔知り合いにもらったものだそうだが、このへんではそんな大きな剣が売られているところがなく、様々な店を巡っているうちにオーレルの店へとたどりついた。このとき、オーレルは事情を聴いて、アーノルドが望む剣を仕入れるあてが思いつき、その剣を準備する約束をした。


 一週間ほど前に、隣町に住んでいる知り合いの腕のいい鍛冶師に無理を言って、剣を打ってもらえることになった。

 一昨日、剣が完成したという知らせが届き、剣を取りに行った。


 二メートル近くの大きさがあるので、運んでくるのが少々大変だった。こんな大きな剣、多くの人は扱いにくいだけだろう。だが、アーノルドの巨体とそれに見合うような馬鹿力によって、その剣を自由自在に扱うことを可能にする。


「アーノルドさん、こちらが特注の品です」


 オーレルが剣を渡すと、アーノルドはそれをじっくり確かめるように見た。しばらくして、アーノルドの顔がほころんだ。どうやらお気に召したようだ。


「ありがとう、オーレル。これは俺が望んでいた剣そのものだ。以前の剣と同じよう、いや、以前の剣よりもしっくりくる」

「いえいえ、アーノルドさんに気に入っていただけたようで何よりです」


 アーノルドが喜んでいるところを見ると、苦労したかいがあったというものだ。

 アーノルドは大銀貨6枚を支払い、去っていった。去り際、彼はオーレルに何度も感謝の言葉を述べ、また来る、と言った。


 今日も多くの客が店に足を運んでくれ、いろいろあったが、無事に今日の営業も終了した。

 慣れないことをやったからだろう、アマーリエの顔には疲労が浮かんでいた。


「アマーリエ、今日はお疲れ様。今日一日どうだった?」

「次々とお客さんが来ていたから、あまり休む暇もなくて大変だったけど、楽しかったよ。いろんな人と話すことができて、私この仕事好きかもしれないわ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。まあ、今日はいつもよりお客さんの数が多かったけど、いつもは今日より少ないから明日はもう少し楽になるかもしれない」

「そっかぁ。でも楽しいから人が多くてもいいけどね」


 こうして、オーレルとアマーリエが話していると、突然アマーリエのお腹が鳴った。今日はよく動いていたからお腹が空いたのだろう。

 このとき、アマーリエは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。


「それじゃあ、ご飯にしようか」


 オーレルの言葉に、アマーリエはこくりと頷いた。

 二人は食事を済ませ、各々自由に過ごしているうちに夜が更けていった。

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