エルフとの出会い
日も暮れてきて、オーレルは今日売れた商品と在庫の確認をしていた。今日はブラッドの他にも十人以上の人がここで武器を買ってくれた。
だんだん在庫が減ってきたみたいだ。また新しく武器を仕入れなければならないなと思った。
オーレルは店を閉めようとドアを開けて、営業中の看板を裏返し営業終了の看板にしようと外に出た。すると、店の入り口近くに人が倒れているのを見つけた。
さすがに放っておくわけにはいかないので近づいて様子を伺った。フードをかぶっているので顔がよく見えないが、女性で、おそらくオーレルの知り合いではないはずだ。オーレルとはあまり年が変わらなさそうだ。
整った顔立ちをしていて、スタイルの良い女性だったのでオーレルは見とれてしまった。
「あのー、大丈夫ですか?」
オーレルが声をかけても全く反応しなかったので、今度は体を揺すってみた。しばらくして、かすかに何かをつぶやいているのが聞こえた。
「うっ……お腹が空いた」
オーレルはようやく倒れている人物がつぶやいている言葉を聞き取れた。この人物は空腹で動けなくなっていたようだ。知らない人物ではあるものの、このまま放っておけば死にそうだなと思い、オーレルはこの人物を家に上げることにした。
「何かごちそうしますよ。僕の家はすぐそこですけど、動けますか?」
「そのぐらいの距離だったら歩ける」
その人物はよろよろと立ち上がり、歩き始めたが、今にも倒れそうで心配だったのでオーレルはその人物を支えて自分の店のなかへと連れて行った。
「今、何か食べ物をもって来るのでここで少し待っていてください」
オーレルは空腹状態の彼女を椅子に座らせ、店の奥にある階段を上った。この建物は一階が店となっているが、二階はオーレルの家となっている。そのため、二階には食料も置いてある。
パンがあるのは見つけたが、これだけでは足りないだろうなと思い、家にあるものでつくれそうなスープなどを急いでつくることにした。
大急ぎで料理をして、すぐに完成したのでオーレルはそれらを一階へと運んでいった。
今にも死にそうな顔をしていた人物は、料理が目の前に運ばれるとすぐに食らいついた。初めは一気に食べたために喉に食べ物をつまらせかけていたが、その後はおいしそうに料理を頬張っていた。
「美味しい……」
突然その人物は涙を流し始めた。これにはオーレルも困惑した。
「えーと、大丈夫ですか。何か変なものでも入っていましたか?」
「ごめんなさい。料理はとっても美味しいものよ。ただ、ようやく食事にありつけたことに安堵してしまって……。なにせ、二日は何も食べていなかったから」
そんなに食べてなかったのか。さぞかし苦しかっただろうなとオーレルは思った。
目の前の人物は黙々と食べ続け、すぐに平らげてしまった。
「ごちそうさまでした。今まで感じたことがないくらいおいしかったよ。本当にありがとう。あなたには感謝してもしきれないな」
先ほどまで死にそうな顔をしていた人物の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「満足してくれたようで何よりだよ」
彼女の口調に流されてオーレルも砕けた口調で答えた。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。私はアマーリエ。よろしくね」
目の前の人物、アマーリエはフードをとり、彼女の肩よりも長く美しい金髪と尖がった耳があらわになった。彼女はエルフだったのか。このへんではエルフを見かけないのでオーレルは少々驚いてしまった。
「僕はオーレル。こちらこそよろしく。ところで、どうしてあんなところで倒れていたんだ?」
「実は、いろいろあって故郷から出てきたんだけど、行く当てもなくあちこちさまよっていたらこの町までたどり着いたんだ。でも、ここにきてお金がとうとう尽きちゃってね。この町で仕事をしようと思ったんだけど、なかなか仕事が見つからなくて、食料を買うお金も無くなり、あそこで倒れちゃったというわけよ」
どうやら何かわけがありそうな感じだが、それは聞かない方がよさそうだなとオーレルは思った。
「そうだったのか。――働く場所が見つからないってことだったら、いい話があるんだけど」
オーレルの言葉に、アマーリエは期待するような目でオーレルを見つめた。
「実は、ここで僕は武器屋を営んでいるんだ。よかったらここで働く気はない?」
少し迷ったが、実は最近店に来てくれるお客さんの数も増えてきたために、オーレルは従業員を雇おうと思っていたのでちょうどいいと思ってアマーリエに話を持ちかけた。
「えっ! いいの? でも、助けてもらってばかりだからなんだか申し訳ない気もするな」
「困ったときはお互い様だから、気にしなくていいよ。それに、人を雇おうと思っていたから、ここで働いてくれると僕も助かるんだ」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。オーレルに助けてもらった分、役に立てるよう精一杯がんばるよ!」
「さっそく明日からよろしく。――そう言えば、お金がないということは、もしかして今夜寝泊まりする場所も確保できていない感じかな?」
「その通りだよ」
「狭いけど二階の部屋が1つ余っているから、よければ使ってもらっていいよ」
「それはありがたいわ。あなたには助けられてばかりだね。本当にありがとう」
アマーリエの表情は陰りのない晴れやかなものだった。その表情を見ているとオーレルの気分も明るくなる。
明日からの日々がより楽しいものになるような気がした。