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魔剣の在り処

 最後の店は、学園の近くにある武器屋だ。ここはオーレルが王都に来て初めて入った武器屋でもある。

 店の前に着くと、中から学園の生徒が出てきた。学園に近いこともあって、ここには学園の生徒や教師がよく訪れている。客入りがよく、だいぶ儲かっているのだろうなと思う。


 オーレルが中に入ると、お客さんが十人ほどいた。店は広く、十人いても全く狭くは感じられない。

 久しぶりに来たことだし、魔剣のことを聞く前に、何かいい武器があるか見ようと思ったオーレルは他の客に混じって物色した。


 すると、突然声をかけられた。


「オーレルさん、お久しぶりですね」


 声をかけてきたのはこの店の店主であるヘレーネだった。彼女は茶色の髪を後ろでひとつにまとめている。その髪型は、オーレルが初めて訪れたときから変わっていない。彼女はいつも柔和な表情をしており、とても話しやすい人物だ。


「お久しぶりです、ヘレーネさん。今日もお店は繁盛しているみたいですね」

「おかげさまで、たくさん武器が売れていますよ。どうです? 何かお気に召したものはありましたか?」

「はい、いくつかいいなと思うものがありました」

「それはよかったです」


 ヘレーネは優しく微笑んだ。


「ところで、今日はどうされたのですか? たしかオーレルさんは現在武器屋を営んでいるとエドナ先生からお聞きしましたが……」

「ええ、実は今日はヘレーネさんにお聞きしたいことがあって来たのですが」

「私に? なんでしょうか?」


 ヘレーネはオーレルにどんなことを聞かれるのか見当もつかなかった。


「先日、知り合いから王都に魔剣があるということを聞いたのですが、魔剣について何かご存じありませんか?」

「魔剣ですか。オーレルさん、たしか学生時代も魔剣を探してましたよね。そうですね……」


 ヘレーネはしばらく考えると、突然何かを思い出したようだ。


「ああ! そういえば、メラニーさんが魔剣を手に入れたとかなんとか言っていたような気がします」


 ヘレーネの言葉に思わずオーレルの心臓が飛び跳ねた。


「本当ですか! それでメラニーさんというのは?」

「メラニーさんは魔道具の店を営んでいる方です」


 オーレルはヘレーネからメラニーが営んでいるという店の場所を聞き出した。どうやらこの店から真反対の場所にあるようだ。ここは王都の北側にあるが、メラニーの店は南側にあるらしい。

 今日は時間的に行くのはやめた方がよさそうだなと思った。外を見ると、日が暮れ始めている。

 明日にしようとオーレルは思った。


「ヘレーネさん、ありがとうございました」

「お役に立てたようでよかったです。ぜひ、また来てくださいね」

「はい、もちろんです。絶対にまた来ます」


 オーレルはヘレーネの店を後にして宿へと戻っていった。

 歩きながら、魔剣の情報を手に入れられたことを喜んでいた。周りに人がいなければ、スキップしてしまいそうだ。明日、メラニーの店で魔剣にお目にかかれるかもしれないと考えると浮足立ってしまう。


 浮かれていて周囲をよく見ていなかったオーレルは曲がり角から人が近づいてきていることに気づかなかった。


「いてっ。すいません。大丈夫でしたか?」

「はい、大丈夫です。こちらこそすいません」

 

 オーレルがぶつかったのは王立学園の生徒だった。この少年は髪の色、目の色ともに黒色で、 少し気の弱そうな印象を受ける。

 オーレルはこの少年の物腰の低さから自分と同じ平民だと思った。


 オーレルは声をかけようとしたが、少年はその前にさっさと歩いていってしまった。オーレルは少年の後ろ姿を見ながら、彼とはまたどこかで会えるような気がした。


 オーレルが宿に戻ると、すでにアマーリエとリリスがいた。


「おかえり、オーレル。遅かったね」

「なんだかうれしそうね。魔剣は見つけられたのかしら?」

「魔剣は手に入れられなかったけど、魔剣がある場所はわかったんだ」


 オーレルは満面の笑みで言った。その笑顔に影響され、アマーリエとリリスの顔にも笑みが浮かんだ。


「それはよかったね。それじゃあ、明日には魔剣を見つけられそうだね」

「ああ、そうなんだ。もう少し時間がかかるかと思っていたけど、意外に早く見つかりそうだよ。アマーリエとリリスは今日どうだったんだい?」

「私たちは主に宿の周辺を散策していたわ」

「そうそう。それで、いろいろな店を回ったんだ。服の店とか、アクセサリーの店とかね」


 リリスとアマーリエも王都を楽しんでいたようだ。


「明日は王都の北側に行こうと思っているのよ」


 この宿は王都の東側にある。王都の北側はオーレルが先ほどまでいた場所だ。


「王都の北側にはこの周辺よりも多くの店があるって聞いたからね」

「そうだね。あの付近には王立学園もあって、結構にぎわっているんだ」


 王都の北側はアマーリエの言う通り、王都の中でもたくさんの店がある。王立学園の寮に住んでいたオーレルはそのことをよく知っている。


「王立学園って、たしかオーレルが昔通っていたところだよね?」


 アマーリエにそう聞かれ、オーレルはアマーリエにそのことを話しただろうかと思った。だが、ヘルマンが店に来た時にそのことを話したのをすぐに思い出した。


「そうだよ」

「へえ、そうだったのね。初めて知ったわ」


 リリスには話していなかったので、その反応だった。


「オーレルのおすすめの店とかある?」

「そうだな……」


 オーレルの頭にはヘレーネの店が浮かんだが、アマーリエが望んでいるのはそういう店ではないだろう。となると、飲食店とか、アクセサリーとかの店になるが……。どこかおすすめできそうなところがあっただろうか。

 オーレルの頭の中にひとつの店が思い浮かんだ。


「ああ、クレープの店がおすすめだね」


 オーレルの言うクレープの店はオーレルが学園の二年生だったころにできた店だ。この世界にもクレープがあるのかと思い、どんなものか気になって一度行ったことがあるが、おいしかった。前世で食べたクレープとほとんど同じだった。


「へえ、クレープか。食べたことないな」

「ワタシも食べたことないわ。どんな食べ物なの?」


 オーレルは二人にクレープの説明をした。


「おいしそう!」

「そうね。気になるわ」


 クレープは二人の興味を引いたようだ。


 こうして、アマーリエとリリスはクレープを楽しみに、オーレルは魔剣に出会えるのを楽しみに思いながら夜を過ごすのであった。

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