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オーレル武器屋

「いらっしゃいませ」


 オーレルは店の入り口に取り付けてある鈴の音を聞いて、顔を上げた。入り口には、重そうな鎧を身につけた男がいた。見た目は怖いが、実際はその見た目に反して優しい人物であり、人によく慕われていることをオーレルは知っている。ブラッドは冒険者を生業なりわいにしている男で、オーレルが店を立ち上げたばかりのころから店に来てくれている。

 店に入ってくるなり、この男、ブラッドは豪快な笑みを浮かべてこの店の店主であるオーレルに声をかけてきた。


「オーレル、久しぶりだな。元気にしていたか」

「おかげさまで、元気にやっています。今日はどうされたのですか」

「実は今まで使っていた剣が折れちまったから新しいのを探してきたんだ」

「それだったら、この前新しい剣を仕入れたばかりだったんですよ。いいタイミングでしたね」

「おおー! そうだったのか。そしたら、さっそく見せてもらってもらおう」


 ブラッドは再び嬉しそうに笑みを浮かべた。

 オーレルが剣を店の奥から出してきて、ブラッドの前に並べた。ここに並べた剣はどれも質の良いものだ。武器の見極めに関しては自信を持っているオーレルの判断なので、間違いはないだろう。


「どれも良い品質の剣だな。やっぱり、武器を買うときはオーレルの店に来れば間違いなしだな」

 ブラッドはひとつひとつの剣を手に取って真剣に観察していた。


「ここにある剣はいくらだ」

「すべて大銀貨2枚です」


 大銀貨1枚は日本円にして約一万円だ。他には小銅貨や大銅貨、小銀貨などがある。


「そうか。――よし、この剣をもらおう」


 ブラッドが選んだ剣は余計な装飾のない、使い勝手のよさそうなものだった。そう言えば、以前もシンプルな剣を購入していたなとオーレルは思った。


「今、大銀貨1枚しかもっていなかったんだが、残りは小銀貨でもいいか」

「もちろん、かまいませんよ」


 オーレルはブラッドから大銀貨1枚と小銀貨10枚を受け取った。ブラッドは新しい剣をもって、意気揚々と店を出て行こうとしたが、途中で何かを思い出したかのようにオーレルの方を振り向いた。


「そう言えば、近くに凶暴なモンスターが出現したっていう話は聞いてるか?」

「凶暴なモンスター? いえ、今初めて聞きました。どんなモンスターなんですか」

「俺も冒険者仲間から聞いた話だからよく知らないんだが、蛇型のモンスターらしい」


 蛇型のモンスターか。このへんではあまり見ないタイプのモンスターのはずだ。


「教えていただきありがとうございます。蛇型のモンスターなんて珍しいですね」

「そうだな。このへんでは見たことないな。そのモンスターに挑んだやつもいたみたいだが、倒すどころか逆にひどいけがを負ったらしい」

「早めに討伐されるといいですね」

「なんなら俺が討伐しちまおうかな。新しい武器も手に入れたことだしな」

「それはいいと思いますが、くれぐれも気を付けてくださいね」

「もちろんだ。それじゃ、俺はそろそろ行くとするぜ」


 ブラッドは体の向きを変え、再び意気揚々として店を出て行った。


 オーレルは店のカウンターに並べていた剣を店に並べようとして、剣を手に取った。オーレルが剣をもちながら、ふと窓の外を見ると、懐かしい服を着ている集団が目に入ってきた。


 あれは、王立学園の生徒たちだな。オーレルも一年ほど前まではあの学園の生徒だった。あの学園を卒業してから一年も経ったのか。ということは、この店を立ち上げてからもまもなく一年になる。時が経つのは早いものだなと思った。


 あれ、でもここは学園のある王都からは離れたところにある町だ。どうしてそんなところに学園の生徒たちがいるのだろうか。

 オーレルのそんな疑問はすぐに解消した。

 どうやら誰かが店にやってきたようだ。


「いらっしゃいませ」


 オーレルが入り口の方に目を向けると、懐かしい顔がそこにはあった。


「久しぶりね、オーレル。だいたい一年ぶりかしら」


 店に入ってきたのは、オーレルが学園時代にお世話になった先生である、エドナだった。とても若々しい見た目をしており、オーレルと同年代にも思われるが、実際には十歳ほど年上ということを誰かから聞いたことがある。


「エドナ先生、お久しぶりです。でも、どうしてこの町に?」

「実は今年から学園では、実践演習ということでダーリエの町の近くでモンスターと戦う授業ができたのよ。それで、ダーリエの町に来たのだけど、時間が空いたから町をぶらぶらしていたの。そのときこの町に店を構えた卒業生がいることを思い出してここに来たというわけよ」

「そうだったんですか。それにしても、どうしてこの町で実践演習をすることになったんですか? 王都から離れていて移動が大変だと思いますが」

「それは、このあたりのモンスターは弱い個体が多いからよ。授業で行うからには安全に配慮して行わないといけないからね。その点、このへんのモンスターであれば、弱いから比較的安全に行えるのよ」


 エドナは店に置いてある武器が気になるようで、オーレルと話しながら武器の方に目が向いていた。


「あら、この杖は結構良いものじゃないかしら。こっちもなかなかのものね。ふふっ、王都にあるその辺の店よりも良いものを置いているわね」

「品質の良いものを仕入れるように努めていますから。気に入ったものがあれば、ぜひ購入していってください。お安くしますよ」

「そうしたいところだけど、この前新しい杖を買ったばかりなのよね。でも、次に買うときはこの店に来るわ」


 エドナが手に持っていた杖をもとの場所に戻したとき、ちょうど新たな客が店に入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「えっ! エドナ先生、どうしてここに」


 店に入ってきた三人の男子だった。学園の制服を身につけた三人はエドナが店にいるのを見つけると、驚いた顔をしていた。


「それはこの店の店主が学園の卒業生で、私が担任をしていた学生だからよ」

 それを聞いて三人はさらに驚いたようで、今度はオーレルの方に目を向けてきた。

「ここの店主、オーレルは学生のころから武器の収集に没頭していてね、武器を見る目はたしかよ。だから、この店に置いてある武器も上質のものばかりよ」


 三人のテンションが上がり、さっそく店内にある武器を見始めた。剣や槍を手に取りながら、「おお、この剣かっけえ」などと三人でわいわい騒ぎながら武器を見ていた。

 その様子をオーレルは微笑ましく見ていた。


「あっ、そう言えば、このあたりに凶暴なモンスターが出た話を聞きましたか?」

「いいえ、聞いていないわ。この町の近くに凶暴なモンスターが出るなんてあまりないことよね」


 エドナは眉を真ん中に寄せて険しい顔をした。


「はい、僕もお客さんから聞いて先ほど初めて知ったんですが、蛇型のモンスターで、挑んだ冒険者の中には重傷を負った人もいるそうです」

「そう……知らせてくれてありがとう。そうしたら戻って他の先生たちと相談しなくちゃだわ。今日は良いものを見せてもらったわ。次に来るときはここで杖を買わせてもらうわね」

「次に先生が来るときまでにさらに良いものを仕入れておきますよ」

「ふふっ、ありがとう。それじゃあ、また来るわ」


 エドナは店に来た時よりも足早に店から去っていった。そのあとすぐに、三人の男子学生も店から出て行った。店から出ていくときの彼らの表情は晴れやかなものだった。「次来るときはここで剣を買いたいな」、と言っているのが聞こえて、オーレルは少しうれしくなった。

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