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ダーリエの危機去る

 リリスとベリアルは互いに魔法を打ち合っていた。二人が使う魔法はどれも威力の高いものばかりで、次々と周りの建物が破壊されていた。


 二人が戦い始めたとき、すでに周りの人々は戦いに巻き込まれないように離れた場所に移動していたので、犠牲者は今のところ出ていない。


「ずいぶんとしつこいわね。さっさと死になさいよ」

「そちらこそ、そろそろくたばったらどうですか」


 リリスとベリアルの力は拮抗していた。

 だが、次第にリリスが押されていった。


「おっと、どうされたのですか。そろそろ限界ですか。ふふっ、それでは女王の名が泣きますね」

「うるさいわね」


 リリスが魔法を闇魔法を放つが、ベリアルには簡単に避けられていた。


「では、次で終わらせましょうかね。超級闇魔法シュヴァルツライトニング!」

 リリスに黒い稲妻が襲い掛かる。

「魔力の消費は多いけれどあれを使うしかないわね」


 リリスは苦い顔をした。ベリアル程度であればもう少し簡単に倒せると思っていたが、ベリアルの強さはリリスの創造を超えるものだった。


「王級闇魔法ブラックホール!」


 次の瞬間、黒い球体がリリスの頭上に現れた。ベリアルの放った黒い稲妻はそれに吸い寄せられ、リリスにあたることはなかった。


「なんですと! まさか、私のあの魔法がかき消されるとは。そんな魔法今まで見たことないですよ」

「それはそうよ。この魔法はワタシがつくり出した魔法だもの。さあ、これで終わりよ!」


 リリスは黒い球体をベリアルの方へ放った。


「ここでやられてたまるものですか!」


 ベリアルは何とかリリスの攻撃から逃れるために逃げようとする。だが、それは叶わなかった。


「何ですかこれは? 体が吸い寄せられていく。くっ、だんだん吸い寄せる力が強くなってきている」


 ベリアルは少しずつ黒い球体に引き寄せられ、黒い球体に体が触れた。


「まだ、やりたいことがあ……」


 ベリアルは何かを言い終わる前に黒い球体に体が飲み込まれていった。


「ふう、これで終わったわね」


 リリスは疲れた顔をしていた。リリスは魔力総量が多い方であるが、今の魔法で半分の魔力を使ってしまったので疲れもするだろう。


 悪魔同士の戦いは多くの建物を破壊し、悪魔の女王リリスの勝利で幕を閉じた。


 

◇◇◇◇



 オーレルは決断が下せなかった。

 オーレルが何もできないでいる間にもゾンビは街を破壊している。

 この周辺にも人がいて、その人達がこのゾンビに襲われる可能性もある。そのため、早めに片付けなければならない。


 だが、それはこのゾンビを殺す、すなわちあの少年を殺すことになる。

 それは避けたい。可能であればあの少年の命も救いたいとオーレルは考えていた。助けを求める少年の顔がオーレルの頭によぎる。


 そのとき、ゾンビが家の壁を破壊し、中から二人の子供とその母親と思われる人の姿が見えた。彼らは最大限後ろに下がり、おびえた表情でゾンビのことを見つめていた。

 ゾンビもそれに気づいたようで、彼らに襲い掛かろうとした。

 

 あの少年を殺さなければいけないのだろうか。


 オーレルは刹那の逡巡ののちに、すぐに決断を下した。

 運よく、家の中に剣が落ちてるのが見え、それを拾って、オーレルはゾンビに背後から斬りかかった。


 倒すことはできなかったが、ゾンビの狙いを変えることはできた。

 ゾンビはオーレルに殴りかかろうとする。


「すまない」


 オーレルはゾンビに一撃を食らわせた。

 ゾンビは踏ん張ることなくあっさりと地面に倒れた。

 オーレルの中にはやりきれない思いだけが残った。


「ありがとうございました」

「ありがとう」

「すごい! かっこよかった」


 オーレルは助けた子供たちとその母親に声をかけられた。


「無事でよかったです」


 オーレルは笑顔を顔に張り付けて答えた。

 子供たちの母親はオーレルに何かお礼を、と言ってくれたが、オーレルはそれを断った。


 オーレルはゾンビがまだ生きていることに安心した。だが、どうやったら元の姿に戻るのかわからない。だが、魔法に長けたリリスであれば何か方法を知っているかもしれないと思った。倒れているゾンビを担いで、その場から離れていった。


 店に戻ると、多くの人が集まっていた。その中にはフリッツたち四人組やクラウス、ブラッドたちもいた。

 何事だろうかと思って、近づいていくと、リリスがみんなに囲まれていた。


「リリスさん、すごいよ。あんな強いやつを倒しちゃうなんて」

「ああ、ほんとリリスさんかっこよかったぜ!」

「リリスさんのおかげでほんと助かったわ」


 周りの人たちからほめられ、リリスは嬉しそうにしていた。


「あっ! オーレル、どこに行っていたの?――えっ、その担いでいるのはどうしたの?」


 オーレルに話しかけてきたのはアマーリエだった。オーレルが担いでいるゾンビを見て驚いた顔をしている。

 リリスもオーレルが戻ってきたことに気づき近づいてきた。彼女もアマーリエと同じような反応をしたので、先ほどの出来事を話した。


「なるほどね。それだったら、この子を元に戻せるかもしれないわ」

「本当かい、リリス!」

「ええ、ちょっと試してみるわ」


 リリスはゾンビに向かって何かの魔法を使い始めた。


「さっきの戦いで魔力が足りないわね……。オーレル、あなたの魔力もらうわね」


 リリスはオーレルの額に手を当て、魔力を吸い取った。

 突然のことにオーレルは唖然としていたが、体の中から何かが抜けていく感覚があった。

 こんなことを見るのは初めてだった。


「よし、これでいけそうね」


 リリスが魔法を使うと、みるみるうちにゾンビの姿から元の少年の姿に変わっていった。後から、知ったことだが、このときリリスが使ったのは再生魔法というものだった。


「おおっ! もとに戻った!」


 オーレルがそう言ったとき、少年は目を開けた。


「あれっ? ここはどこ? 僕は家にいたはずじゃ……」


 少年が目を覚ましたのを見て、オーレルはほっと胸をなでおろした。


「はあ、よかったあ。ありがとう、リリス」


 オーレルは安堵で力が抜け、倒れそうになった。それをアマーリエが支えてくれたおかげで倒れずに済んだ。


「オーレル、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」


 オーレルはアマーリエに礼を言ってから、足に力を入れてしっかり立った。


「リリスさん、今の何したんだ?」

「今の魔法すごいわね」

「リリスさん、何でもできるね!」


 周りにいた人々は先ほどのリリスの魔法を見て口々にリリスをほめたたえた。


「そんな、大したことはしてないわよ」


 その言葉とは裏腹にリリスは嬉しそうにしている。

 このとき、オーレルは白いローブの男を逃がしたことなど頭の中から抜け落ちていた。そんなこと以上に少年の命が助かってよかったということがオーレルの頭を支配していた。

 こうして、ダーリエの町に訪れた未曽有の危機は過ぎ去っていった。

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