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もう一体の悪魔

 リリスがオーレルのところへやって来た次の日、昨日とは打って変わって空は晴れ渡っていた。

 店を開けると、さっそく誰かがやって来たようだ。


「いらっしゃいませ」

「おお、オーレル。今日はいい天気だ……」


 店に入ってきたのはブラッドだった。ブラッドはあるところを見つめて固まっている。


「お、おい、オーレル。また人を雇ったのか?」


 ブラッドが見ていたのは新たにここで生活することとなったリリスだった。


「ああ、なんというか……いろいろありまして」

「そうなのか。彼女もこれまた美人だな」


 ブラッドの発言を聞きつけたリリスはオーレルたちの方へ近づいて行った。


「それはうれしいわね。ワタシはリリス。よろしく」

「リリスっていうのか。俺はブラッドだよろしく頼む」


 ブラッドとリリスはお互いに自己紹介をして少し話した後、ブラッドはいつも通りオーレルと世間話をし始めた。


「オーレル、知っているか?」

「何をですか」

「昨夜、この町の中で兵士が殺されていたことをだよ」


 オーレルは聞いた瞬間、ついリリスの方へ目を向けてしまった。悪魔であるリリスならば、可能性があると思ったからであった。

 だが、リリスは心外だと言わんばかりの顔をしながら首を振った。

 彼女のせいではないことが分かって少し安心した。


「この町で人が殺されるなんて初めて聞きましたよ」

「俺もこの町に住んでからもう十年は経ったが、町で人が殺されるなんてのを聞いたのは初めてだ。まあ、ときどきモンスターに殺されるってのは聞いたことがあるが、今回はそうじゃなさそうだしな。町の中にモンスターが出たってのは考えにくいからな」

「誰が殺したかはわかっているんですか?」

「いや、一切わかっていないらしい。聞いたところによると、何らかの魔法で、心臓を貫かれて即死したそうだ」


 ブラッドはオーレルに近づいて、声を潜めて言った。


「実は、これは噂に過ぎなくて、俺は信じていないんだが……いや、やっぱりやめとこう」


 ブラッドはもったいぶるようにしてそこで言葉を切った。


「そんな言いかけてやめないでくださいよ。気になるじゃないですか」

「そ、そうだよな。わかった。これはどっから出てきたのかわからないただの噂だ。実は兵士を殺したのは人ではなく、悪魔だということだ」


 悪魔? オーレルはつい再びリリスの方を見てしまった。

 リリスの近くにいたアマーリエもリリスの方に目を向けていた。

 だが、困惑したような顔でリリスは首を振っていた。


「まっ、忘れてくれ。悪魔なんてこんなところにいないだろうしな。俺はそろそろ行くぜ」

「あっ、はい、今日もモンスターの討伐頑張ってください」

「おうよ」


 こうしてブラッドは店から出ていった。

 オーレルはすぐにリリスの方を見た。

 オーレルの言いたいことが分かったのか、リリスはすぐに口を開いた。


「兵士が殺されたらしいけど、ワタシは何も関与してないわよ。昨日はここに来てから、この建物の外には一歩も出なかったわ。それに今回この世界に来てからは一人も殺してはいないわ」


 リリスの様子から、彼女の言っていることは事実だとオーレルは感じた。

 根拠を聞かれると困るが、直感でリリスはやっていないような気がした。


「リリスがそう言うなら、そうなんだろう」


 オーレルの言葉に、リリスは少しほっとしたようだ。

 それにしても最近はいろいろあるなとオーレルは思った。Aランク冒険者でさえ手こずるようなモンスターが現れたり、店の前にエルフが倒れていたり、悪魔が現れたり、今後も何か起こる気がしてならないな。

 そんなことを考えていると、カランと入り口の鈴の音が聞こえた。

 今は仕事に集中しなければなと思い、オーレルは切り替えた。



 日が傾き、空はオレンジ色に染まっていた。この時間になってもオーレルの店にはまだお客さんが入っていた。


「オーレルさん、聞いてくださいよ。今日はグロースフロッグを倒したんですよ」


 クラウスが自慢げに話していた。

 グロースフロッグというのは全長二メートルほどのカエルのモンスターだ。毒をもつということもなくキングサーペントに比べればかわいいモンスターだ。ただ、グロースフロッグに飲み込まれたときは大変だ。そして何より脂肪が厚いのでなかなか攻撃が通らない。

 そのため、Dランク冒険者にとっては倒すのが難しい部類のモンスターだ。


「おお、すごいじゃないか。なかなか剣が刺さらなかっただろう」

「そうなんですよ。あれには苦労しました。何回か攻撃して何とか刃が通りましたよ」


 楽しそうに話しているクラウスを見て、オーレルは微笑ましい気持ちになった。


「あっ、もうこんな時間! すいません、これから仲間とご飯を食べに行く約束をしているので、失礼します」

「おお、そうか。また来てくれよ」

「はい、ではまた」


 クラウスは急いで店を飛び出していった。

 それから少しして、他のお客さんも徐々に店を後にしていった。彼らを見送りながら、オーレルは今日ももう少しで営業終了だなと思っていた。


 そのとき、突然外から建物が破壊されるような大きな音が聞こえてきた。

 オーレルは何事だ、と思い、外に出て様子を伺った。


 見れば、数百メートル先くらいのところで煙が立ち上っている。

 何が起きているのかよくわからなかったが、少しして爆発が起こったかのような音が聞こえ、建物が崩れていくのが見えた。


 何か異常事態が起こっていることをオーレルは感じた。

 視線をずらしたときに、あるものがオーレルの視界に入った。あれは……。


「オーレル、なにが起こっているの?」


 アマーリエもオーレルに続いて店から出てきた。


「わからない」

「どうやら、悪魔のしわざみたいね」


 いつの間にかリリスも外に出てきていた。


「悪魔? なるほど。あそこで暴れているのが例の兵士を殺したやつか」

「ええ、おそらくそうね。人の命を食らって、強くなっているみたいだわ」

「リリスなら、あれを止められそうかい?」

「ワタシを誰だと思っているの? ワタシは悪魔の女王リリスよ。あんな奴すぐに殺せるわ」


 そう言うなり、リリスは飛び出していった。

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