真夏の市民プールに行った私と一つ年上の従姉妹のお姉ちゃん。
──夏。
何もかも眩しくて。
従姉妹の加奈お姉ちゃんは来年中学生になる。
「真奈。……キスって、知ってる?」
「え?」
流れるプールの隅っこ。誰も居ない。上から瀧みたいに水が落ちて来る日陰。
立入禁止の赤い看板。何の機械だろう。私はゴォーッて響く白いペンキ塗りの鉄板を背にして、浮輪に掴まったまま目を白黒させた。濡れた黒髪を掻き上げて居た加奈お姉ちゃんの瞳が、忘れられなかった。
「真奈も大きくなったよね?」
お姉ちゃんが笑って、ツンと指先が触れた。
「ひゃっ! お、お姉ちゃん?!」
ジンと感じた。プールの水の中。一直線に繋がるのが、どうしてなのか分からなかった。
……けど、知ってた。
少しだけ水着の上から触って確認した。
「真奈は好きな人、居るの?」
「え、そんな急に……言われても」
その日は夕立ちの雨が凄くて。ずぶ濡れになったまま自転車を漕いで、二人で家に帰った。私は、ずっと──お姉ちゃんの髪を結った背中に、透けて見えて居たそれを見つめて居た。ピンク色だった。私はまだ、白いのを着けて居た。
その日の晩ご飯は、お素麺だった。
蚊取線香の匂いと部屋の明かりが消えたお布団の上。振子時計の音が八回鳴った。私はお姉ちゃんの隣で一緒に寝た。
「ん……」
「真奈」
「お姉ちゃん……」
いつものお布団の上。夏休みが終わるまでの。
お姉ちゃんは片足を私の足の間に滑らせる。私は、びくっとしてお姉ちゃんの背中と髪を撫でた。
「加奈お姉ちゃん、あのね」
「真奈は私のこと、好き?」
「うん……」
手が震えて、何も出来なかった。それから唇に触れたのは初めてだった。私は目を閉じて居た。
ずっと昨日まで触られてても、今日が最初で。加奈お姉ちゃんも、目を閉じて居た。少しだけ開いた瞼には、窓辺の月明かりが差し込んで居た。
「真奈……好き」
「……お姉ちゃん、私も」
それから、お姉ちゃんの寝息が聴こえて。ボーンと、振子時計の音が十回鳴った。冷房の音がゴーッと鳴って、しばらく風が止まった。
寝苦しい熱帯夜だったけど、お布団被せるほど涼しかった。
お姉ちゃんの髪の良い匂いがして、頬をうずめた。
「加奈ちゃん……」
「真奈……」
お姉ちゃんの寝言。嬉しかった。
いつも、これからも一緒だよって言いたくて……。私も目を瞑った。
「おやすみ。加奈お姉ちゃん……大好きだよ」
「……」
聴こえて居るのかな? 返事は無くて。
プールとお素麺と、お姉ちゃんと雨の中を自転車漕いで帰ったのを想い出して居た。