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短編ホラー

アブノーマル・アクティビティ Kaerimi血 〜 ベッタベタな洋モノホラーを貴方に 〜

怖くないから、笑ってね!

 ビリーとケリーの若い夫婦は深夜、森の中を走る小道に車を走らせていた。


 辺りは真っ暗である。

 二人の乗るマツダ・ロードスターのヘッドライトだけが暗闇を裂いて走る。


「今、何かがいたわ」

 ケリーが前方に何かを見たようで、助手席からビリーにそう言った。

「道を横切った」


「キツネだろ? このへん多いからな」

 ビリーには見えなかったようだ。興味なさそうに、そう答えた。

「昼間はロマンティックだが、夜は不気味だからね。二人の新居をあまり不吉なものにしないでくれよ、ケリー。HAHAHAHAHA!」



 新婚の二人は中古の一軒家を買ったのであった。

 人里離れた森の中に隠れるように建つ二階建ての家だ。

 都心部から離れているということもあるが、前の住人一家が何やら事件を起こしたということで、その家は破格の安値で、若い二人にでも購入することが出来た。



 街へ二人で遊びに出かけた帰り道だった。



「ほら、帰ったよ」

 ビリーが言った。


 二人の前に、買ったばかりの黄色い二階建ての一軒家が、暗い森を背にして立っている。

 

「ホッとするわね」

 ケリーにようやく笑顔が浮かぶ。

「帰る場所があるというのはいいことだわ」


 玄関から入り、電気を点けると、まだ片付けきれていない家の中が照らされた。廊下に並べられた段ボール、居間に設置されたソファーの上にも段ボール、温州みかんの段ボール、段ボールの隙間から目玉、バレンシアオレンジの段ボール──



 お気づきになられたであろうか?



 スロー再生でもう一度──


 廊下に並べられた段ボール


 居間に設置されたソファーの上にも段ボール


 温州みかんの段ボール


 段ボールの隙間から目玉



 段ボール


 の


 隙間から



 目玉






 ……目玉!






Mewニャー


 段ボールの隙間から目玉を覗かせていた二人の愛猫のスージーが姿を現した。



「ただいま、スージー。お留守番させて悪かったわね」

 ケリーが猫を抱き上げ、キスをする。






 夜、二人の眠るベッドにもうひとつ、気配があった。猫のスージーは別室の猫ベッドで眠っている。


 二人が眠るベッドの、白いシーツが勝手に動く。モゾモゾと、しかしなめらかに。


 ビリーが寝室に取り付けた防犯用カメラに、それは克明に映し出されていた。


 向かい合って眠る二人の間の掛け布団が、モコモコと勝手に盛り上がった。


 それはまるで小さな人間のような動きで、頭をたどたどしく振るように、ビリーのほうへと近づいて行く。


 戦慄したようにビリーが目を開く。


 彼の前で、掛け布団が盛り上がり、ユラユラと動いている。


 ビリーは布団を、退けた。


「ダァ!」


 赤ちゃんだった。


 知らない赤ちゃんだった。新生児ではないが、まだ1歳にも満たない知らない赤ん坊が、二人の間にいたのだ。


「ケリー! 起きろ! 起きてくれ!」

 ビリーは彼女を揺り起こすと、聞いた。

「これは誰の赤ちゃんだ?」


「あら。今頃知ったの?」

 ケリーは眠い目をこすりながら、答えた。

「昨日、養護施設からお迎えしたのよ。二人の子供よ。いいでしょう?」


 ビリーは即答した。

「責任取るよ」


 何の責任だというのであろうか?






 白い壁に黒い染みがある。

 まるで立っている髪の長い女性のような形の、黒い染みだ。

 血の痕のようにも見える。


 前の住人一家がこの家で、どんな事件に巻き込まれたのか、ビリーは調べていた。


 初夏の朝日を緑の森が心地よく変換し、大きな窓から取り入れている。リビングのノートパソコンに陽があたり、画面を真っ白にしてしまう。


 パソコンモニターに反射する光の中に、黒い影が浮かび上がった。


 それはまるで髪の長い女性が立っているような──


 ビリーはノートパソコンをパタンと閉じた。


「閉じ込めたぞ! サダコをノートパソコンに閉じ込めた!」


 ガッツポーズを作りながらそう言うビリーの背後に、長い黒髪の女性が立っていたが、ビリーは気づかなかった。


 気づかなかったものは、なかったものにされた。






 ビリーが調べた結果、遂に判明した。


 1年前、この家に起きた悲惨な事件の全貌。それは悪魔の仕業であった。


 この家には悪魔が棲みついているのだ。


 その悪魔は女性の悪魔であり、女性の身体に取り憑いて、男を喰らうのだそうである。


 前の住人一家の妻が取り憑かれ、夫を包丁で斬り殺し、内臓をかっさばき、肉を包丁の背で叩き、美味しい唐揚げにしてみんなで食べたというのが事件の全貌であった。


「なんてことだ……」

 リビングのノートパソコンの前で、ビリーはフリーズした。

「そんな事件が……この家で起こっていたなんて」


 小さな別ウィンドウの中ではサダコが出してほしそうに、もがき苦しんでいた。


 背後から足音が近づいてくる。


 ビリーは額から汗を垂らしながら、おそるおそると振り向いた。


「ビリー……」

 ケリーの声だった。

「よかったわね」


 ビリーは割れたアゴから汗を滴らせながら、振り返った。シャツは汗でぐっしょぐしょであった。


「本当に……よかったよ」

 ビリーは、笑った。

「僕たちが同性婚の、ゲイの夫婦でさ」


 鼻の下に立派なヒゲを蓄えたケリーが、胸筋をピクピクと上下に動かしながら、笑った。




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― 新着の感想 ―
[一言] す・・・すみません。。 無意識の差別がありました。。。m(_ _;)m 最後の3行を読むまで、全く想像していませんでした! 幕田さんの紹介で来ました。(^^)
[良い点] 女性に憑依して悪事を働く習性を悪魔が持っていたとしても、相手が男性同士のカップルなら手出し出来ませんね。 悪魔によって呪われた事故物件も、その呪いの対象から外れた人間にとっては住み良い我が…
[一言]  養子を迎えたところが伏線だったとは!
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