ちゅうい、ゾンビ、秘境温泉、木彫り
『注意』
山を息子と散歩していたら看板が目に入った。
「お父さん.あれなんて書いてあるの?」
息子が看板を指差して言った。
「あれか。かきちゅういって読むんだよ」
「ふーん」
「でもこんな看板は初めて見たな」
「そうなんだ。珍しいんだね」
「あっ、危ない!」
ごんっ。
「痛いよ〜。痛いよ〜」
柿の木から落ちた柿が息子の頭に当たったのだ。
「大丈夫かい?」
ああもっと俺が柿注意の看板に真剣に耳を傾けていれば……
『ゾンビ』
家の窓から見下ろす町はゾンビで溢れていた。見渡す限りゾンビゾンビゾンビ。
幸いな事に街の家は見える限りはまだ壊されたりしていないので、家に避難すればゾンビの襲撃からは逃れられるだろう。
が、いつまでこの状況が続くのかが分からない外に出られないこの状況では八方塞がりであることには違いない。
ゾンビはあてもなく町をさまよい続けている。
ゾンビとは一体何なのだろうか。なぜ死者が歩くのだろうか。いや死んでいる訳ではなく、何かの感染症なのだろうか。噛まれたらゾンビになる。いや空気感染であるならば、僕がいつ感染してゾンビになるかも分からない。
そんな事を考えていたら、僕の意識がだんだんと何かに乗っ取られるかのような感覚にとらわれ始めた。もしかして僕はゾンビになってしまうのだろうか。いやもしかしてではない。間違いなく僕はゾンビになってしまうのだろう。なぜなら無意識のうちに手が動き、僕の顔はゾンビへとだんだんと変貌していっているのが鏡を通して分かったからだ。鏡に映っている僕の顔は笑っていた。
ドンドンドン!
ふいにドアが強くノックされた。直後、ドアが開けられ母親が顔を覗かせた。
「あらっ。ゾンビの化粧するの上手いじゃない。これでハロウィン準備は万端ね」
『秘境温泉』
「ふー、今日も良い湯だな」
ここは山にある露天風呂。俺は皆で登山の為に山を移動中、仲間とはぐれた時に、ここを見つけた。
ここはまだ出来たばかりの温泉場所の様である。
規模は小さく、若干温度は熱いが特に不満はない。ここは俺だけのパラダイスだ。
そんな自分だけのパラダイスを満喫していたある日、そこに人影が。
女だ。
女が俺に気付かず、やって来た。
女が服を脱ぎ、裸体を晒し温泉に入って来た。
女は俺が温泉に入っている事など気づきもしない様子だった。
俺は女の様子をじっと見つめていた。
すると、また別の女達が次々と温泉に入って来た。
どうやら女達は仲間の様だった。
俺は女達の動向をじっと見つめる。
しかし、段々とムカついてきた。何で俺が見つけた温泉に勝手に入っているんだ。この温泉は最初に見つけた俺の物だ。
俺は裸で女達の前に姿を現した。
「キャ、キャー!!」
女達は俺を見て驚きの声を上げた。
「さ、猿よ! 野生の猿よ!!」
人間の女達が何か喚いているが、ここは俺のテリトリー。この場所を譲るつもりは毛頭無かった。
俺は女達にうんこを投げつけた。
『木彫り』
凄い。
奈良に修学旅行で行った僕は、仏像を見て感動した。
千年も前の仏像がこうして今も残っていて、僕が今それを見ている。この千年以上の間に様々な人達がこの像を見て色々な感想や感情を僕と同じように抱いたのであろう。
その佇まいは憂いを帯びていつつ、それでいて迫力を感じられ、時代を超えて今なお訴えかけて来ている。
僕も仏像を彫ろう。
思い立ったが吉日、鉄は熱いうちに打て、だ。
僕はすぐに彫刻を始める事にした。
しかし、いつまで経っても成長は見込めなかった。
そんな時だった。
「私は木彫り神です」
目の前に現れたその存在は眩しい光を放っており、直視する事は出来なかった。
藁にもすがる思いの僕は木彫り神にお願いした。
「木彫りが上手くなりたいです」
「頑張るのみ」
「神なのにまさかの精神論!?」
僕はがっかりした。
「一つだけ方法がある」
「お願いしやす」
「えいや!」
木彫り神が僕に何かをしてくれたので、説明を伺った。
「君は木をまず大事にしていないんだ。木と会話が出来ていない。根本的な原因はそれだ。だから君の体の素材を木にしたよ。これからは自分の理想の体型を自分で彫るが良い。もちろん一発勝負ね」
僕の体はマイクラのような体になってしまった。
これから自分で頭、手、足、そして股間を掘らなければならない。木彫り神がいうには、世界のどこかに僕と同じで木彫りになった運命の女がいるらしい。
僕はいつか出会えると信じて、イケメンになるべく自分の体に彫刻を彫るのであった。