表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Evolve  作者: 五十嵐 颯木
5/8

5.順応性の試験

またせたな!(待ってない)

牢屋の中で座り込み、随分と時間がたった気がする。ふと顔を上げ耳を澄ますと、階段の方から何者かが降りてくる気配を感じた。流子が帰ってきたのだろうかと階段の方に目を凝らすと、どうやら違うようで同じような戦闘服に身を包んだ少し華奢な体型の別の少女だった。黒く長い艶のある髪を白い紐のようなもので束ね、黒い布で鼻と口を覆い隠したその風貌は、さながらくノ一のようだった。俺がその姿を口を開けてただ眺めていると、少女は檻のそばに座り込み、少し空いた隙間からトレイのようなものを滑り込ませる。俺が近づいてトレイを掴もうとすると、少女は少し驚いたように手を離す。手元にあるトレイの上には、小さく千切られたパンの欠片と具材の切れ端のようなものが浮かんでいるスープらしきものが置かれていた。

「それ……昼食…………食べて……」

少女はそう小さく呟くと、立ち上がって階段の方へと消えていってしまった。今度来た時に言いそびれたお礼をしなければと思いつつ、食事に手をつける。先程流子が言っていたようなまさに残飯と言ったような昼食だったが味は悪くない、そして何よりもこの異常な世界で定期的に供給される食事を得られたことが一番幸福な点だった。目に涙さえ浮かべながら完食すると、トレイを隙間から牢屋の外に静かに置いた。しかしまだ一日とはいかないものの随分と時間はたったはずだが、一向に体に異変が起きている様子はない。今はただ二日経てば完了するという流子の言葉を信じて待ち続けるしかなかった。


しばらくすると、階段の方から再びあの少女が降りてきた。少女が地面に置いてあるトレイを拾ってすぐ階段を登ろうとするのを見て慌てて声をかける。

「ご飯ありがとう!……美味しかった」

普段から人と話す機会が少ないが故の弊害、完全に第一声の声量を間違え、続く声量はしりすぼみに小さくなっていった。恥ずかしさで身悶えしそうになる俺を他所に、少女は軽い会釈で済ませると階段を上がっていってしまった。

「はぁ……なれない会話なんてするもんじゃないな……」

その日夕飯もその少女が持ってきてくれたのだが、当然俺は恥ずかしさで顔を合わせる勇気も出せず、少女が居なくなると牢屋の隅で丸まって座り込むことしかできなかった。そんなこんなで身体が眠気を訴え始めたのを感じ一日目は終わりを迎え、共生状態の完成まであと一日となった。翌朝、依然として身体に違和感は感じられないまま朝食をとり牢屋の中で時間を浪費する。ふと気になって鉄格子を揺すったり扉を強引にこじ開けようとするが、それらしい力が手に入っている訳でもなく落胆し床に座り込む。どうやらこの身体に何か変化が起こるまではどうしようもないらしい。ふと落ち着いてみると、妙な不安感が自分の中で渦巻いていた。今まで共生状態になるということのみに意識が集中していたが、その後に自分を襲う激痛に関してはなんの考えもなかったからだ。激痛と言ってもたかが知れているだろう。そう信じたい心がどうしても自分の中から離れないまま、二日目も流れるように過ぎていった。

ご意見、誤字脱字等ありましたら是非ともご指摘ください。あとできれば評価も下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ