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Evolve  作者: 五十嵐 颯木
3/8

3.懲罰房

3話です

何故か全てが謎の組織に入隊することになった俺は、何やらそれらしい応接間に通された。そこは先程までいた簡素な部屋とは違い、重厚な革のソファや間接照明に観葉植物まである。初めてこの世界に来た時に見た中世西洋かぶれみたいな建物とは大違いだった。そんな洒落たアジト内部にて俺はソファに腰かけ、少女は向かい側に座り手を組んだ。他の男達は別の部屋に戻って行ったらしく、この空間には俺と少女の二人だけとなった。少女は不敵な笑みを崩さず、グラスに水のような透明な液体を注ぐ。

「ひとまず首の皮一枚繋がったってぇ訳だが…………どうだい?今の気分は」

「最悪だ」

俺がそう言うと少女はケラケラと手を叩きながら笑いだす。

「そいつは結構…………まぁなんだ、何はともあれまずは自己紹介だな。あたしは砕樹 流子、あんたの名前は?」

「…………浅倉 隼人」

まるで日本人のような名前で驚いている俺を見て、流子は不敵に笑う。

「そう変に構えなくてもいい。こんな『ナリ』だがあたしも手前と同じ日本人さ」

ようやく会えた日本人は随分と奇抜な身なりをしているがそんなことはどうでもよく、今の俺には聞きたいことが山ほどあった。

「ここはどこなんだ?」

「ここってのはこの世界全体についてだよな?この世界は『ラクトバルム』、魔王が平和を脅かしている以外は何一つ危険もない平和ボケした場所さ」

「ラクトバルム……やはり地球じゃない『異世界』ってことなのか?」

「あぁ、手前はこの世界に選ばれた…………ってわけじゃねぇけどな。手前の言う『異世界』ってニュアンスは正しい」

やはりこの場所は俺のよく知る地球じゃなかったようだ。質問はさらに溢れてくる。

「あんたの組織について教えてくれ。入るって決めたんだ、話してくれるんだろ?」

「あぁ、勿論だ。平和保全機関『ホロウ』……それがあたしらの組織の名さ」

「……へいわほぜんきかん?」

平和保全機関なる謎の存在に疑問を抱いていると、彼女は意気揚々と語り始めた。

「あたしら平和保全機関は人知れず世の中の安全を守っている素敵な人達さ。勿論誰かから感謝されるわけでもねぇし、保全つっても平和を脅かしそうになっているか脅かしてる奴らを処理する半分殺し屋被れの戦闘員みたいなもんだがな」

「……殺し屋被れの戦闘員」

組織の人間全員がまるで戦闘服みたいな不可思議なスーツに身を包んでいるのはそういうことかと納得していると、少女は何やら俺が迷っていると勘違いしたようで半笑いで口を開く。

「仕事のざっくりとした概要ってのはそんなもんだが……どうだい?尻込みするかい?」

正直この先殺し屋になっている自分を想像することはできなかったが、覚悟を決めてきたのに今更気持ちで負ける訳には行かないと自分を奮い立たせる。

「ここまで来たんだ、今更する気も起きない。殺し屋になれって言うならなってやる」

「威勢は結構!それじゃ今から詳しい業務内容を………………と言いたいところなんだがまず手前には何も聞かずにこの仕事に就く上で一番重要な試験を受けてもらう」

すると流子は先程液体を注いだグラスを差し出してくる。訳が分からないままそれを受け取ると、彼女はその液体を飲めとジェスチャーする。促されるまま透明な液体を飲み干すと、どうやらそれは何の変哲もない水のようだった。

「なんで水なんか飲む必要があるんだ?」

言い終わった瞬間全身を揺さぶられるほど大きな倦怠感が襲い、俺は一瞬で気を失った。


目を覚ますと、先程までいたアジトとは似ても似つかない暗い空間。この世界に来てからこんな状況に陥りすぎでは無いかと思ったが今回ももれなく異質な場所で目を覚ましたようだ。次第に目が慣れてくるとここが3方向を壁で囲まれ、前面に鉄格子がたてられた牢屋のような場所というより牢屋そのものだとわかった。入口には大きな南京錠がかかっているようで、どうやら脱出は不可能らしい。

「目ぇ覚めたかぁ〜!」

何か眩しい光が階段をおりて鉄格子に近づく。蛍光色に発行するそれは流子だった。何故か先程まで白かったはずの彼女の髪の毛が蛍光色に発光している。彼女は暗闇の中で俺の存在を見つけると、鉄格子越しに顔を近づけてきた。相変わらずの恐ろしい笑顔が色々な意味で眩しかった。

「いやぁ睡眠薬なんて飲ませて悪かったな。まぁ毎回あることだし大目に見てくれ」

確かに無味無臭だと思っていた水にあれほど強力な睡眠薬が混ぜられていたことも驚きだが、そんなことよりも意味不明に光る彼女の髪の毛に完全に意識が持っていかれていた。すると彼女もそれに気がついたのか髪の毛を弄りながら俺の顔を覗き込む。

「これ、気になるかい?」

「あまりにも今情報が混在し過ぎている」

「じゃあ気にしない方がいいな」

疑問は尽きないが、今はその言葉に甘えることにし、彼女の説明が始まった。

「ここは『懲罰房』って言われている部屋で、あたしらのアジトの中で最も陰気臭くて最も重要な部屋だ」

懲罰房……確か先程椅子に縛られている間に男が口にしていた気がする。耐えられるわけがないとも言っていたし、一体この空間で何が行われるのだろうか。

「今日から手前はここで生活してもらう」

…………………………この空間で………生活?

「あぁ、マジかって顔してるとこ悪ぃがマジだ」

こんなことならさっきアジトの内装なんて詳しく見てから来るんじゃなかった。今目の前に広がる空間の全てに嫌悪感を覚え始めていると流子はさらに条件を付け加え始めた。

「替えの服はねぇし飯はあたしらが食ってるもんの余り物ってことになるがまぁ我慢してくれ。あたしらの上にいる奴らからしてみれば今の手前は良く言ってもただの居候でしかねぇしな」

上とはよく分からないが随分と薄情な組織があったものだ。最早どこから質問していいのか分からない非常な待遇からは目を逸らし、今重要なことを聞く。

「それであんたの言うしばらくってのはどの位なんだ?」

すると彼女は手に持った南京錠を見せつける。それは今俺が入っている牢屋の入口に取り付けられたものと同じ、特に装飾のされていない単純且つ重厚な作りのものだった。まさか「これをピッキングか何かでもして脱出するまで」とでも言うのだろうか……

「この南京錠をぶっ壊せるようになるまでだ」

「…………………………………………………………は?」

「まぁ半年もありゃ手前でもぶっ壊せるようになるだろ」

全くもって意味がわからない。彼女の手の上に乗った重厚な南京錠は到底工具無しで破壊できるものではないだろう。それを破壊するまでと言われてもそれより先に寿命が来てしまうのは明確だった。俺が呆気に取られていると、流子は入口の方へと歩いて行った。

「まぁいきなり無理難題に聞こえるようなこと言われても困るよな。でも心配すんな、あたしも不親切じゃねぇから手前にだって半年もありゃこんな風に……」

彼女が入口に手をかけると、鈍い音をたてながら一瞬にして南京錠がひしゃげた。何かの間違いではないのかと目を疑ったが、入ってきた彼女が手に持っていた半分砕けたような南京錠を見せられては信じるしかなかった。

「なんでこんなことできるんだ?って顔してんな」

俺は素直に頷いた。流子はおまけだとでも言うようにひしゃげた南京錠を粉々に握り潰すとお得意の不敵な笑みを浮かべる。

「じゃあ次はそいつについてのお勉強だな」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字等ありましたらご指摘ください。

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