この子幽霊見えんの!?
第三部設定です。シンシアちゃんが霊感ある子です。
一番怖いのはこの子かもしれない……。
休日、勉強会を開こうとオキシペタルムクラッスの教室に集まる。
「それにしても……暑いな……」
「八月ですからねー……」
ユーカリが呟くと、シルバーが笑って答える。ここの学級は北国出身の人達ばかり、シンシア以外は暑さに慣れていない。
「そうですか?それなら、冷たい飲み物を持ってきますよ」
「シンシアは暑さに強いな……」
「さすが、元義賊だね……」
シンシアは立ち上がり、飲み物を持ってくるために食堂へ向かった。その途中でこの世の者ではない人を見るが、特に気にせず通り過ぎる。
――この手のものは関わるだけ面倒だ。
ただでさえ死者の声がまとわりついているのに、それ以上変なことに関わりたくない。生者に何か出来るわけでもないので、見えないふりをするしかないのだ。
教室に戻り、机に飲み物を置く。
「ありがとうね~、シンシアちゃん」
「いえ、この暑さでは王国に住んでいるとどうしてもきついですよ。私も少しきついですし」
そういえば、シンシアもいつも着ているマントを脱いでいる。そこはやはり王国出身者だ。
「あ、そうだわ~。怪談でもしてみないかしら~?」
「かい、だん?」
シンシアの頭には上り下りの階段の方が浮かんでいた。それに気付いたガザニアが説明する。
「怖い話をして、それで涼むというものだな」
「あ、そうなんですね」
「シンシアは傭兵や義賊ならではの怖い話を知ってそうだな」
ユーカリが妹に振ると、彼女は「怖い話、ねぇ……」と過去を思い出し、
「傭兵時代、拾い食いしたせいで寄生虫に脳を食われた人がいて……」
「待って待って待って!それ違う意味の怖さだから!聞きたくない!」
真顔でそんなことを話そうとする少女をシルバーが止めた。
「そう?この後結構ヤバいことになったけど」
「なんでこの子こんな落ち着いてられんの⁉実際に見たんだよな⁉」
「傭兵とか義賊をやっていたら慣れるわよ。内臓が飛び出していることもあるし」
「この子怖い!」
「何なら拷問の話でも……」
「はい次!次行こう!アンナ、何かないか⁉」
駄目だこの子に話をさせたら別の意味で怖くなる!
そう悟ったシルバーは慌てて別の人に話を振る。……だが、振った相手が悪かった。
「あるわよ~。これはね……」
そう、今度は怪談話が怖すぎたのだ。アンナが話し終える頃には、アドレイとサライはガザニアに、メーチェはフィルディアにしがみついていた。
「アンナのばかぁああああ!全然甘口じゃなかったよ⁉」
「ガザニア、僕達友達だよね⁉今日一緒に寝てくれるよね⁉」
「うぅううう……!せ、先生のところに……!」
「さすがに今のは怖かったな……」
「そうですねー……」
ガザニアとフィルディアは三人を必死になだめ、ユーカリの感想にシルバーは頷いていた。そんな中、シンシアだけは静かに飲み物を飲んでいた。
「お前は平気なんだな」
ユーカリが妹に言うと、「怖がっていたら義賊なんて出来ないので」と答えた。
「当然だな」
フィルディアも頷く。
「それに、今まで呪われたこともないし」
「そ、そうだよね!お化けなんていないよね」
アドレイに言われ、シンシアは「へ?」と思わず声を漏らした。そして、視線を逸らす。
「えっと……いないとは……言ってないね?」
「えぇええ何々怖い!」
「私はお化けではないわよ」
突然何かを叩く音が聞こえてきて、シンシア以外の人が「ひっ⁉」と声をあげる。
「ごめんごめん。謝るから肩を叩かないで、痛いから」
少女は至って冷静に告げると、その音は止む。
「あなた、自分が人より力強いってこと自覚して……。肩の骨にヒビが入るかと思った……」
そして何もないところに声をかける。……まさか。
「……シンシア、お前、霊が見えるのか……?」
「え?まぁ、一応。さっきも見ましたし」
「……そりゃあ、怖がらないわけだ……」
こういったことに慣れているのだろう。これが日常だと思っていた節さえある。
「そういえば、アンナさんの話って帝国でのものですよね?」
「そうよ~。よく分かったわね~」
アンナが頷くと、「じゃあ、やっぱりあそこの話か」と呟いた。
「確か、首を吊った人がたくさんいて」
「え?」
「来た人にイタズラするために物を動かして」
「待って」
「構ってほしくて手とか足を引っ張って」
「「「「「「「「これ以上詳しく話さないで!」」」」」」」」
……本当に怖いのはこの子なのかもしれない。




