この満たされた日々に閉じ込めて
第三部の話です。
相変わらずシンシアちゃんが切ない……。
「兄様!」
シンシアがユーカリを呼ぶ。彼は振り返り、「どうした?」と首を傾げた。
「実は、教えてもらいたいところがあって……」
「珍しいな、お前が教えを乞うなんて。……どこだ?」
「これです」
シンシアはアリシャ教の教典を見せる。
「あぁ、そういえばお前はアリシャ教をよく知らないんだったな」
「えぇ、その……神学はどうしてもよく分からなくて……」
「なるほど。まぁ、あまり関わっていなければ仕方ないことだな」
ユーカリがそれを受け取り、教えていると、
「おー、兄妹で何やってんだ?」
グロリオケが中に入ってくる。ユーカリが「少し教えているだけだ」と答えた。
「それなら、後で俺の作った薬の実験台になってくれよ」
「断る。……と言うより、また作ったのか」
「あら、珍しいわね。三人で集まっているなんて」
そこにアネモネまで入ってきた。級長組が集まるとは、と思いながら「私が兄様に教えを乞うていたんです」と笑った。
「そうなのね。シンシアにも分からないことがあったのは意外だわ」
「私も完璧ではないですよ。分からないことだって多々あります」
――この先の「未来」とか。
今はこうして笑い合っているが、もうすぐで目の前の姉は戦争を始める。そして……己の誕生日の日に敬愛する先輩が行方知れずになるのだ。
――嗚呼、全てを忘れて閉じ込められていたい。
この、幸せな日々に。




