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掌中之珠

最愛が、、

一切恋の思いを断ったというなら、お陰で此の俺は、もう生ける屍も同然になるな。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! !!!!!!!! !! ....




「カンジ?!」


 漸く地下伽藍の暗闇の中から、月明かりが灯る外へと出る事が出来たの。


 誰も居ない夜の寺院。

其の傍らに、早急まで這い回っていた地下伽藍の出入り口はあった。


 深夜の外気に、肌を晒すと少し身震いする。

独りで夜の境内に身を投じるのは余りに淋しくて、、



(できれば早くカンジの温もりに包まれたいのだけれど、)


 そう切望しながら地下を歩いて来たからだろうか?

 出口に出た途端、其の深夜の闇の向こうに、赤く目を光らせたカンジの姿を、幻の様に見つける事が出来たのだから。


「アヤカ!! 遅くなった。 」


 謝る感カンジが、そのまま一気に駆け寄って、わたしの肩を両手で抱き込む。

 両肩にカンジの体温と心地よい重さを受け止めて、途端に気持ちが緩むのを感じた。


「大丈夫よ。カンジは?」


 目を凝らして見れば、カンジが纏う服は何処もかしこも裂傷だらけで。 最速、わたしを追って来たのは容易に想像出来てしまう。


「無理をしたんじゃない? 」


 躊躇いなく抱き込んで、わたしの背中を弄るカンジの頭に、子供を宥める様に手を回せば、


「何かあるとするなら。 アヤカを見失ったことぐらいだ。すぐに居場所がわかったのだが、すまない。」


 カンジは別に悪くもないのに、わたしに再び謝りながらも閉じ込めた腕で、わたしの全身を無茶苦茶に撫で上げる。


(煩わしいことに巻き込まれたのね。 特に問題ないなら、、)


「いいの。」


 まるでマーキングをするかに、今は首元から胸にかけて薄く冷たい唇を這わせてくるカンジに、わたしは短く応えたの。


「糞虫の臭いが付いたままだ。」


 そんな風に揶揄するカンジは擦り寄せる顔を上げるはしない。

わたしはカンジの言葉を其れ以上に詮索しないで、カンジが傷を負っていないかだけを、胸元に顔を埋めるカンジの頭を抱きしめつつ確認する。


「ヤラレタわけじゃ無いだろ?」


 口元にまで、カンジの唇が戻ってくると同時に口内にカンジの長い指を差し込まれた。

 余り突然で、喘ぐ様に応えるしかないわ。


「こ、これでもハウアー母星筆頭公爵の巫女令嬢よ。ああ、 わ、わたし、アップルのヒント見つけた、か、かもしれない。 」


 ワヤワヤとそのまま口内までも確認をするのか、長い指で舌をなぞられると、


「アヤカの体から、嫌な匂いを消すのが先だ。」


 今度は耳を舐められたから、ツラツラと伽藍での出来事を思い出す。

 そういえば、子男の息が耳元に掛かったのを忘れていた。


「そうね、少し付きまとわれたかもしれない。」


 長い指を絡めて忠犬みたいに舐めてくるカンジの顔を見上げると彼は、わたしの瞳をじっとりと伺う様かに覗き込む。


「糞虫は何処だ?」


「もう小さくなってしまったからわからない。」


「万死に値する。糞が消えた場所を燃やし尽くす。」


 冗談めかしに台詞を吐くけれど、カンジの身体がヤンワリと発光して、タトゥーに紛れ刻まれた紋様が浮かび上がる。

 これは間違い無くカンジの感情が揺れた証拠で、


「ダメ、、止めて。大切な聖地なの。此の中へ囚われていたけれど、オーバーリヴァイブをしたら此処にアップルがあった形跡もあるのよ。」


 そこまで言って、ふとカンジの顔を今度は、わたしがカンジの顔に両手を当てて覗き込めば、カンジが其の掌に舌ごと唇を押し当てた。


「濡れて湿った土の味か…」


 開いた指と指の隙間越しに、赤い舌を出すカンジを見て想う。

 あの地下迷宮で見た帝国星系人の面影が、誰かに似ていると思ったの。


「 ねえカンジ、貴方に! ううん、昔の貴方に、此の場所でオーバーリヴァイブをして出会ったわ。あ、今は流石に下はダメ、、 」


「太腿に臭いが付いたままだろ?、、それに俺はこの場所に来た覚えがない。 もしも俺に似たのがいたとするなら。 」


 カンジは気を抜くと、不埒に太腿を弄るから、カンジの長くて深い睫毛と一緒に目を閉じさせる。


「、、もしかしてカンジには兄弟はいる?」


「残念ながら、 時間の狭間でどこか溶けてけしまったかもしれないとは言えない叔父がいるな。 」


 アーダマ帝系旧ヴンパイア貴族の流れを汲むカンジ達の寿命は長い。カンジと似た叔父が居ても確かに可怪しくは無い。


 カンジは睫毛の先端から、わたしの掌の感触を堪能する、瞼を態と開けたり閉めたりをしながら応えた。


「その叔父様々も、もちろんタイムリープをしてファーストアップルの探索に旧消滅地球へ来ていたのね。」


「アヤカ達、ハウアー母星人と同じくな。」


 旧消滅地球を故郷とする、わたしのハウアー母星とカンジのアーダマ帝系は、拠るべく星が無くなったまま、巨大コロニーで国を形成している。


 だからこそ、代々ハウアー母星貴族は成人すると一定期間タイムリープをして、星を創生するファーストアップルを探し求めてきた。


(それにもう1つ。 大事な事が解ったわ。)


「オーバーリヴァイブした時に、カンジとの生態リンクのお陰か リゥウバイブ先でのリアリティが100%リンクしているみたいなの。 」


 わたしは、夜空に浮かぶ大きな満月を眺めながら、カンジの両瞼を覆っていた手を解く。


「それはどういうことだ? 」


「これまでのリヴァイブは土地の記憶を読むのだけれど、 記憶だけじゃなく、其の場所にダイブしている状況じゃないかと思うの。」


「もしそうならば、仮にダイブ先で時間軸が違ったとしても、アップルを見つけることが出来たなら、記憶を読むだけではなくて、持ち出すことが可能かもしれないということか?」


 深い夜の空気が、わたしとカンジの身体に纏わり付くから、ゆっくりと境内の外へと歩き出そうとしたら、カンジが肩に乗せ上げてくれる。ハイヒールでは、確かに玉砂利は歩きにくいからだろう。


「リアルアップルを追い求めなくても、リヴァイブの中でアップルに手を出し、時間軸を改ざん出来るかも。」



「仮定ではあるけれどもか。」


 その代わりに、肩手が塞がるカンジの胸ポケットからシガーを取り出し、火を付けてカンジの口へと咥えさせた。


(此の地下伽藍で、、例えばあの人がカンジの叔父ならば。、あの時間違いなく相手は私の存在を見つけていた。 )


 ユラユラと煙が夜空に吸い込まれるのを見ながら、もう一度伽藍で見た相手の様子を思い出す。


「静かの君の時もそうだったけれども、リヴァイブ先で私たち自身を、過去の人間が認識するのはまずないはず。 」


「しかし、俺との融合をしたアヤカのリヴァイブによって偶発的にもリアルリンクが限りなく100%に近い状態になったか、、」


 間違い無く、あの時、相手と視線が合った。


「ならば限りなく、其の土地でアップルの記憶があり、その時間軸にポイント合わせてリヴァイブが出来れば、わたしたちはアップルを手に出来るわ。」


 そこまで言うと、わたしはカンジの肩からヒラリと地面に降り立つ。


 忘れていたけれど。 時計の針はもう頭いふ長く2人が別れていたことを示している。


 カンジが、今度はわたしを横抱きにして跳ぼうとするのが解った。


「とにかく車に戻ろう。 」


「そうね。 」


 わたしはカンジの言葉に応えると、再びカンジの腕の中から降りる。丁度境内から出て、アスファルトの道に差し掛かった処だから。


「たまには少し歩いてみない?」


 そしてカンジに悪戯っぽく笑ってみせた。


「深夜の山の中をデートか?」


「一度やってみたかったのよ、ヒッチハイク。」


「こんな夜中に車を走らせる野郎は碌のはいないぞ。」


 そんな風に言い放ちながら、カンジは何か知ってる顔をして、山の方角を見る。遅れた理由が其処にあるのかもしれないけれど、、


「でも、相手も女が女だと油断するでしょ。カンジは必ず後ろから現れるわけだし。」


「まるで美人局みたいなもんだな。」


「言い方が悪いよ。 」


 スカートを翻して、わたしはカンジの前をハイヒールを鳴らしながら歩き出す。


「肩に乗せて飛んだ方が早いがな。 」


「いいのだって。深夜のこの月? こんなにも綺麗なんだもの。 少し眺めていたいわ。ほら覚えてる? 」


 シガーを指に挟んで、カンジが徐ろに肩を抱いて、そこまま腰を引き寄せてくると、鋭いのに熱を帯び目で、わたしの顔色を覗き込む。


「初めてやった時の日か。」


 ハウアー母星人は、すでに退化した行動として、生殖行為を放棄している。だから男女の交わりは、すべてカンジが初めて。


「 そう今、思い出した。あのミミズ、カンジと同じことを言っていたわ。」


「やっぱり今々しいな。焼くか。 」


「あれも、、寂しいのね。 」


 アーダマ帝系人も本来の生殖行動は、皆無だと聞いていたけれど、カンジは旧消滅地球での活動で行為を繰り返していたと思う。


「今を生きていない者同士、陽炎の様な存在で時間の中漂っている時に、久しぶりにぬくもりに出会えたんだわ。彼も。」


 只、生身の感覚が違うと、


 月に照らされ瞳孔を燃やしながら、わたしを喰らうカンジは、あの日唸りながら、そう声を漏らしていた気がする。


「だからと言って俺の最愛を攫っていい理由にはならん。」


「そうね。わたしも、そんな気はない。 」


 気が付けば国道まで出て来た処でカンジが呆れた声を出してきたの。


「本当にするのか?」


 だから、やっぱり微笑みながら、わたしは応える。


「ヒッチハイク、 一度だけやってみたいのよ。ほらもう国道でしょ。 」


「お姫様の言うとおりだな。」


「相手はびっくりするわよカンジが出てきたら。」


 だからといって、こんな深夜に走る車も、気配もないけれど。

 宙でなら敵同士2人で、満月の夜に歩き続ける事なんて奇跡だから。


「いつの間にかアヤカも悪い女になった。 」


「最初は生娘だったのに、誰かの形に変えられたみたいね。 」


 長く伸びる影を、ステップ刻みつつ踏みながら、旧消滅地球で覚えた歌を歌って歩く。


「艶めく才能があった。」


「これが、カンジの見い出した花よ。 」


「 行き先はどうする。」



「富士樹海ね。 」


「富士曼荼羅か。」



貴方も時間逆行の人なの?鎌倉奇譚編 End


★駿河編へ to be continued




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