9
「あ~、くっだらない」
私はイライラしていた。
「なんであんな男たちのことが好きだったんだろう……」
碌に私としゃべってもいないくせに。
好きです好きですって、薄っぺらいのよ。
軽薄な男たちに頭にくる。
だけど、それ以上に自分に腹が立つ。
「私も、同じか……」
よく考えてみれば、私も同じ。
矢沢くん、遠藤くん、飯島兄弟、全員と碌にしゃべったこともない。
まわりのみんなが「かっこいい」というから好きになっただけ。
それなのに、バカみたいに迷走して挙句の果てには自殺した。
「私の恋ってなんだったの」
虚しい。
もうさっさと天国に行きたい。
『キュー。あと一人落とせば、わかってるよね?』
『もちろん、わかってますとも。なんでも願いを一つ叶えます』
そうだ。
あと一人。
私のことを振った男がいる。
そいつのことを恋に落として、さっさと願いを叶えよう。
私の願いは「天国に行くこと」だ。
最初からこれが狙い。
キューから話を聞いたときから、この作戦を考えていた。
私は自殺をしたので地獄に落ちるかもしれない。
だったら、キューに頼んで天国に連れて行ってもらえばいい。
どうせ、この世に未練なんてないんだから。
◇ ◇ ◇
最後の一人。
田中翔太。
彼は普通の男の子だ。
これまでのイケメンたちとちがって、スポーツも勉強も普通。カリスマもない。当然、芸能人でもない。
いたって普通の男子生徒だ。
では、なぜ私がこの人に告白したのか。
それは、簡単に付き合えそうだったからだ。
イケメンたちに四連敗していた私は、クラスも同じでいつも気さくに話しかけてくる田中くんなら私と付き合ってくれるだろうと思って告白したのだ。
一緒に勉強したり、放課後に買い食いしたりと、それなりに秋波を送り、親交を深めたつもりだ。
だが、田中くんは私のことを振った。
理由は、「そういうつもりじゃなかった」だそうだ。
これが決定打となり、私は自殺を決意したのだ。
正直、一番恨みが深い。
「田中く~ん。一緒にご飯食べようよ」
「あ、え、恋塚さんが俺と? い、いいけど」
昼飯に誘う。
田中くんはまさか自分が声を掛けられるとは思っていなかったらしく、慌てた様子だ。
顔を真っ赤にして弁当箱を引っ張り出す。
あーあー。わかりやすく動揺してるな、この童貞は。
こいつもすぐに落とせそうだ。
「恋塚さん、どうして俺なんかと……?」
「えー? なんでだと思う?」
「わ、わからないなぁ」
「田中くんに興味があるから、かな?」
「……ッ!」
田中くんはきょどりながら、蓋がついたままのペットボトルを口に当てる。
はは。
なーにが「……ッ!」だよ。
本当に男の子ってちょろい。
こんなちょろい男すら落とせなかった自分に涙が出るよ。
本当に腹が立つ。
こいつも私にメロメロにさせて、告白させよう。
そして、恋心をぐちゃぐちゃに踏みつぶしてやるんだ。
今に見てろ。