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次の日、この日は朝礼があり全校生徒が体育館に集められた。
「あ~あ、退屈だなぁ」
矢沢くんも遠藤くんも、あっさりと恋に落とせた。
生前の私があんなに苦労して気を惹こうとして失敗していたのに、見た目が変わっただけで数秒で落とせる。
ばかばかしいと思えてきた。
見た目しか見ていないアホな男と、そんな男どもに熱を上げ、振られて落ち込んでいた自分にも。
”え~、それでは、遠藤徹くんから生徒のみなさんにも一言”
”どうも、遠藤です”
壇上に遠藤くんが上がる。
どうやら、また論文が認められて新聞記事に載ったらしい。
今日はその表彰式だ。
”まず、論文のことなど、どうでもいいです。僕は今、ある女性に夢中になっています”
「え、遠藤君が女性に夢中に!?」
「だ、誰だ!? 誰に夢中になってるんだ!」
生徒たちがざわめきだす。
女子生徒たちは悲鳴を上げる。
”それは、転校生の恋塚天音! キミだ!”
なにをするのかと思ったら……。
公開生告白とは。しかも、全校生徒の前で。
どんな童貞を拗らせたらそんなことをしようって発想になるんだ?
”僕はキミのことが好きになった! 付き合ってくれ! いや、結婚してくれ!”
みんなの前で告白することで、私の逃げ道を塞ごうとか考えたのかもしれない。
せこいなぁ。
なに、あの自信満々の顔は。
私も壇上に上がる。
そして、マイクの前に立ち、はっきりと答えた。
”ごめんなさい。付き合えません”
遠藤くんは「え?」という顔をする。
振られることなど想定外だったのだろう。
”な、なぜだい? 僕が付き合ってあげると言っているのに! こんなに名誉なことはないんだよ!?”
”なぜって、興味ありませんから”
遠藤くんは風船の空気が抜けたように膝から崩れ落ちた。
すると、もう一人、壇上に躍り出た。
矢沢くんだ。
”はっはー! 遠藤、残念だったな! 恋塚さんは俺がもらう!”
矢沢くんは嬉しそうにしている。
遠藤くんが振られたのであれば、自分に勝機アリと踏んだのだろう。
”それじゃあ、俺と付き合おう! 恋塚さん!”
”ごめんなさい。嫌です”
”嫌なの!?”
矢沢くんは素っ頓狂な声を上げる。
コントのようなテンポのよさに、生徒たちは笑い声を上げる。
いい気味だ。
生前の私もこの男たちにこれくらい素っ気なく振られた。
きっと、昨日一日、どうやって告白するか考えていたに違いない。
そして、うまくいったときのことを想像してドキドキワクワクしていたはずだ。
一日が無限に感じられるほど悩み、恋焦がれ、自己正当化し、また不安になり、の繰り返しだったはず。
そして、その果てに告白した。
どうだ?
それをグチャグチャに踏みつぶされる気分は。
自分の恋する気持ちを踏みつけられる痛みを知るがいい。
私が自殺するほど悩んでいた気持ちの1/1000でも理解しろ。
矢沢くんと遠藤くんがしぼんでいると、さらに二人の男子が壇上に上がる。
この人たちは飯島兄弟。
双子で、二人とも芸能活動をしているアイドルだ。
この学校で一番モテる。
”恋塚さん! 俺と付き合おう!”
”いいや! 恋塚さんは俺のものだ! 付き合ってくれ! そして、一緒に銀幕デビューだ!”
”ごめんなさい。ていうか、どっちがどっちかわからん”
飯島兄弟が崩れ落ちる。
こうして、私のことを振った五人の男の内、四人の男を逆に振ってやった。
私はすこぶる気分がよくなって壇上から降りた。