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7/12

 遠藤くんは私に興味がないようなので、図書館から帰ることにした。

 すると、背後から「待ちたまえ」と声を掛けられる。

 遠藤くんだ。

 私はきょとんとした顔で振り向く。


 「はい。なんでしょうか」


 「さっき、キミが読んでいた本だが、内容を理解できているのか?」


 さっき読んでいた本?

 ああ、『フェルマーの最終兵器』とかいう数学の本のことか。

 本棚から適当に取っただけで碌に読んではいない。


 「いえ、難しくてよくわかりませんでした」


 「ふん。わかりもしないのに本を開いていたのか」


 嫌味な言い方だ。


 「遠藤くんには関係ないでしょう? それだけですか? 私、もう帰りますから……」


 「待ちたまえ! 仕方がないから僕が特別に内容を解説してやろう!」


 遠藤くんはわざわざ空き教室をとり、机を向かい合わせて私に座るように命令してきた。

 そして、本の冒頭から細かく数学の理論を説明し始める。

 

 間近で見るとますますイケメンだ。

 サラサラの黒髪に細いフレームのメガネ。

 その奥に見える切れ長の涼し気な目。

 

 かっこいいなぁ。

 やっぱり好きかも……。

 なんとか振り向かせることはできないかな。


 私は彼の美しい顔をうっとりと眺めた。 


 ……待てよ。どうして、自分の勉強を切り上げてまで、本の内容を教えてくれるんだ?

 もしかして、本当は私に気があるのではないだろうか。


 自分の仮説をたしかめるために、私は胸元のボタンを一つ外し、「暑いなぁ」と言いながらワイシャツの首元をパタパタと動かした。

 

 「だけど、フェルマーは証明を書かなかったから……って、おい。話を聞いているのか。恋塚」


 「ごめんなさい。暑くって。続けていいよ? 聞いてるから」


 「だ、だから、フェルマーは余白が少ないから証明は書ききれないと、言っていてだな、それがのちに、その、なんだ、物議を……」


 「うんうん。それは大変ね~」


 遠藤くんは次第に解説がしどろもどろになり始め、私の胸元を凝視するようになった。

 顔もかなり赤くなってきている。


 やっぱり。

 本当は私に興味があったんだ。

 彼はプライドが高いから女性に興味がないふりをしていただけ。

 だけど、そのプライドのせいで女性と付き合ったことがないから、色仕掛けにはめっぽう弱いみたいね。


 ここで追い打ちをかけたい。

 私は上履きを脱いで、向かいの机に座る彼の足に自分の足を絡めた。


 「……ッ! そ、それで、結局証明がわからないから、数学者たちは、その、困ってしまって……」


 「うんうん」


 「でも、フェルマーは、すごい数学者、だったから、無視も、できなくて……」


 「ほうほう」


 足をふくらはぎ→ひざ→ふともも→股へと移動させる。

 足の裏で股をこすってあげる。


 「はうっ。そ、それで、ふぇ、フェルマーは証明、書かなくて……」


 「それもうさっき聞いたよ?」


 足の裏でコスコスと股をこする。

 

 えいっ。踏みつけてやれ。えいっ。えいっ。


 「ああ、すごい……はうっ……」


 「そうだねぇ、フェルマーすごいねぇ」


 あまりいじめてもしょうがないので、股をこするのをやめてあげた。

 

 「もうこんな時間、遠藤くん、私もう帰るね」


 「え、は? か、帰るのか? もうちょっとだけ……」


 「だって、つまんないんだもん。続きは自分でしてね?」


 そう言って、教室を出る。

 遠藤くんは机にうずくまったまま動くこともせず、私が帰るのを見送った。




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