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私たちが舌戦を繰り広げていると、一人の人物が割って入ってきた。
矢沢くんだ。
「どうしたんだよ。日和」
「あっ。啓介! な、なんでもないわよ」
矢沢くんが宇海さんのことを「日和」と下の名前で呼んでいる。
当時のことを思い出してちょっと胸が痛くなる。
「どうも、こんにちは。矢沢くん。転校生の恋塚です」
私が挨拶すると、矢沢くんが私のほうを見る。
そして、そのまま三秒くらい固まった。
すでに私の虜になっている。
「うわっ。すっごい美人だね。キミが噂の転校生か」
彼女の前で言うことではない。
まあ、反射的に言ってしまったのだろう。
矢沢くんも言ったあとで「やべ」みたいな顔しているし。
「矢沢くんとお話がしたいと思ってきたんだけど、お邪魔だったかな?」
私は上目遣いをしてぶりっ子を演じる。
「い、いや、そんなことないよ。少しぐらい時間はある」
「啓介! 練習中でしょ! はやくグラウンドに戻って!」
宇海さんが焦りだす。
「まあまあ、日和。ちょっとくらいいいだろ?」
「ダメ! 絶対ダメ!」
きっと宇海さんの頭の中では緊急警報が鳴っているのだろう。
このまま私を近づけさせてはまずいと本能的にわかっているのだ。
いい気味だ。
少しからかってやろう。
「もしかして、お二人は付き合ってるんですか。そうだったら残念です」
わざとらしく気を落としているふりをする。
すると、矢沢くんはすぐに弁明し始めた。
「い、いや、日和とは……宇海さんとはただの友達だから! 付き合ってないよ! 俺はフリー!」
「はっ!? ちょっと待ってよ、啓介! 私たち付き合ってるでしょう!」
「あはは。宇海さん。冗談はよしてくれ。俺たちは友達だろ。なっ?」
うわ~。ひどいな。
秒で彼女を切り捨てやがった。
私が転校生だから言い訳が効くと思っているのだろう。
矢沢くんは何食わぬ顔で彼女を捨てた。
そのまま「ちょっと待ってて。今、監督に今日の練習休むって伝えてくるから! 恋塚さんはそこにいてね!」と言って、監督がいるほうへ走っていった。
「あらら。私が告白するまでもなかったなぁ」
「あ、あ、あ、あんた! 絶対許さないからね!」
「私は何もしてないよ? 矢沢くんが勝手に言ったんじゃない。ねえ? 矢沢くんのお友達の宇海さん?」
私はにんまり笑い、手をハサミの形にするジェスチャーをした。
これで、二人の赤い糸は切ってやった。