異世界召喚
僕の名前は五十嵐健人。都内の高校に通う16歳だ。
僕の毎日は苦痛の日々だった・・・。
クラスの男子たちからイジメに遭っている。
「いーがらしく〜ん」
ある日の放課後、男子の一人が声をかけてきた。
「な、なに?須藤くん・・・」
「なあ、ちょっと金貸してくんないかなぁ?」
「そうそう、俺たちうっかり定期落としちゃってさぁ。電車賃がないんだわ」
「え・・・でも中村くんこないだも貸したけどまだ返してくれてないよね・・・?」
「あ?お前は困ってるクラスメイトを見捨てるってか?」
「わ、わかったよ・・・はい」
僕は財布を取り出すと一万円札を手渡した。
「サンキューな」
須藤くんと中村くんはそう云うと教室から出て行った。
「もう!なんで素直に渡しちゃうのよ。きちんと断らないとだめじゃない」
そう声をかけてきたのはクラスのマドンナ的存在、『佐々木杏子』さんだった。
「佐々木さん・・・」
彼女は僕に優しくしてくれる唯一のクラスメイトだった。
「だ、だって断ったらまたひどい目に合わされちゃうし・・・」
そう、お金で済むなら安いものだ。
僕へのイジメは決まって放課後に行われる。
クラス委員で正義感の強い『和泉恭也』くんがいるからだ。
彼は誰にでも優しく、人望も厚く、剣道のインターハイ優勝の経験もある強い人だ。
だから彼らは和泉くんにバレないようにイジメてるのだ。
彼に泣きつけば間違いなく助けてくれるだろう。
しかし、僕は彼のことがあまり好きではない。
僕が『リア充爆発しろ』と思ってるからだ。
そして、今僕に話しかけている佐々木さんもカースト上位のリア充だ。
しかし、彼女のことは別に嫌いではない。寧ろ好感すら覚えている。
あれは、ある雨の日のことだった。
橋の上を歩いていると、子猫の鳴き声が聞こえてきたのだ。
川を見ると、なんと段ボール箱に入った子猫が流されているではないか。
かろうじて岩にひっかかっていたのだ。
僕は急いで河川敷を降りての中に入っていった。
幸い深さは腰くらいまでだったので泳げない僕でもなんとか助けられたのだ。
そして、子猫を抱きかかえて戻る途中、僕は足を滑らせてしまった。
雨で増水し、勢いを増した川の流れに泳げない僕はなすすべ無く流されてしまったのだ。
(もう駄目だ・・・猫ちゃん、ごめん助けられなくて)
そう思った次の瞬間、橋の上から誰が飛び降りた。
「もう大丈夫!私につかまって!」
それは同じクラスの佐々木杏子さんだった。
そして僕たちは何とか河川敷に辿り着き一命を得たのだった。
「佐々木さん・・・どうして」
「たまたま通りかかったらあなたがその子猫を助けようとしてるのが見えたのよ」
「でもまさか飛び降りるなんて」
「考えるより先に身体が勝手に動いちゃってたのよ。それに、五十嵐くんの方が無茶苦茶よ。泳げないくせに川の中に入っていくんだもん」
「僕も同じだよ。考えるより先に身体が勝手に動いちゃってた」
「なにそれっ。ふふ」
「あはは」
その一件があってから、彼女は時々僕に話しかけるようになっていた。
ちなみにあの時の子猫は『レオン』と名付けて僕が飼っている。今では立派に育っている。
「五十嵐くんって、動物好きなんだ?」
それは僕が休み時間、動物の図鑑を見ていた時のことだった。
「うん。将来は獣医になりたいと思ってて」
「へぇ、そうなんだ。私はトリマーを目指してるの」
「そっか。動物好き同士お互い頑張ろう」
時々彼女とはそんな世間話をするようになっていた。
そして、そんな僕たちの夢は叶うことがなくなってしまった。
それは二時限目の古文の授業中のことだった。
「・・・てゆう感じで、この文はラ行変格活用でーーって、え!?」
国語教師の『茨美月』先生が説明している時にそれは起こった。
突然教室の中が白い光に包まれたのだ。
騒ぐクラスメイトたち。
「皆さん、落ち着いてっ。順番に避難をーー」
次の瞬間、僕たちは全員見たこともない建物の中に立っていた。
それは映画でしか見たことのないような中世のお城の大広間のような場所だった。
「おおっ!成功じゃっ」
そして目の前には見るからに王様な感じの人がそう叫んだ。
「ここは!?」
「何が起こったんだ!?」
「私は夢でも見てるの!?」
クラスメイトたちは口々に騒いでいる。
「静まりなさい!王の御膳であるぞ!」
王様の隣に立つ人物が叫んだ。
するとみんな取り敢えず口を閉じた。
「あの、説明していただけませんか?ここはどこで、私たちに何が起こったのか」
先生が訊ねる。
「ここはアールスハイド王国。儂はアールスハイド49世、この国の王じゃ。そなた達は儂らが異世界より召喚した」
「え、え?召喚!?な、何のために?」
「そなたたちにはこの世界を救ってほしいのだ」
そしてざわめくクラスメイトたち。
「この世界には大きく分けて三種類の種族の人間がおる。儂ら人族、亜人族、そして魔族。現在、人族と魔族の間で戦争をしているのだ。しかし、能力の低い人族では魔力量の多い魔族には勝てそうにない。そこで、この世界の人間より数倍能力が高いとされる異世界の人間を召喚したのじゃ」
「そんなっ。この子たちはただの高校生、子どもなんですよ!?」
「ならばそなたらが儂らより優れているという証拠を見せよう。キース」
「はい」
すると、王の隣の男性がハガキくらいの金属の板と、一本の針を僕たちに配った。
「そのステータスプレートに自らの血を1滴垂らしなさい」
キースと呼ばれる男性がそう説明すると、みんな次々に指に針を刺していく。
僕も同じようにして、板に血を垂らした。
「おー、すげぇ!字が浮かんできた!」
「え、何これ!?」
クラスメイトたちの驚きの声が上がる。
そして、僕もプレートを見てみた。
名前 ケント・イガラシ
レベル1
職業 動物つかい
HP 30
MP 20
力 60
魔力 10
スキル あやつる
と書いてあった。
「どうじゃ、おそらくそなたらのステータスは全員最低でも100は超えているはずじゃ。この世界の人間の初期ステータスは平均30前後じゃ」
は?全然100とか超えてないんですけど?
寧ろこの世界の平均ですけど・・・。
そして、キースさんがみんなのステータスプレートをひとりひとり確認していく。
「ふむ、さすが異世界人。みな見事なステータスだ。次は・・・なんと!?」
キースさんが和泉くんのプレートを見て驚きの声を上げていた。
「職業勇者だと!?しかも初期ステータス平均値は500越えとは」
「おー、さすが恭也だな!」
「和泉くん素敵っ」
あっという間に和泉くんはみんなに囲まれていた。
そして、いよいよ僕の番だった。
「次は・・・何?動物つかいだと?初めて聞く職業だな。しかもステータス30だと?まるで使い物にならんな」
「ぷっ、動物つかいだってよ?お前にぴったりじゃねぇか。ははは」
「なんだよ五十嵐、よわっ!!ザコすぎだろ」
須藤くんと中村くんが笑う。
そして、一通り確認が終わり王様が口を開く。
「そなたらは明日から訓練を受けてもらう。まずは王国騎士団とともに東の森の魔物退治に同行してもらう」
「勝手に決めるなっ。早く日本に戻してくれ!」
クラスメイトの一人が叫んだ。
すると、次々に声が上がった。
「そうよ!そんなの私には無理よ!」
「うちに帰して・・・」
しかし、そこへ和泉くんが叫んだ。
「みんな!!ちょっといいかい?」
するとみんな黙って和泉くんを見る。
「この世界の人たちが困ってるんだ。そして僕たちにはみんなを助ける力がある・・・僕は困ってる人たちを見捨てることはできない。僕らで頑張ってみないか?」
「和泉くん・・・」
「恭也・・・」
「どうやら僕のステータスはこの中で一番高いようだ。みんなが危なくなったら必ず僕が助ける!だからついてきてくれないだろうか?」
すると、みんなの空気が一気に変わる。
「わかったよ。俺にどこまでやれるかわからないけど」
「うん、みんながやるなら・・・」
そして、僕たちはこの世界を救う役目を負ったのだった。