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第20話 緊張する対面

 私とロコは、ネセーラさんにとある部屋まで連れてきてもらっていた。

 ここは、客室である。どうやら、ここでアムルドさんの妹さんと対面するようだ。


「失礼します」

「あ、はい」


 私達が待っていると、戸を叩く音とアムルドさんの声が聞こえてきた。

 恐らく、アムルドさん達が来たのだろう。

 私の言葉の後、ゆっくりとその戸が開かれていく。いよいよ、アムルドさんの妹さんと対面できるのである。


「ミナコさん、待たせてしまいましたね」

「い、いえ……」


 そう思っていた私の目に入ってきたのは、アムルドさんと小さな女の子だった。

 二人は、ゆっくりとこちらに歩いてきて、私と向かい合うように座る。


「ミナコさん、紹介しましょう。こちらが僕の妹であるラナリアです」

「ラナリア・シェルドラーンです……」

「あ、はい……」


 座ってから間もなく、アムルドさんがその女の子のことを説明してくれた。

 当然のことではあるが、その女の子こそ、アムルドさんの妹さんらしい。

 その姿に、私は少し驚いていた。てっきり、十代後半くらいの子が来るものだと思っていたからだ。

 目の前にいる子は、どう見ても十代前半かそれ以下である。その事実に、少しだけ驚いてしまっているのだ。


「ラナリア、こちらはミナコさんと愛犬のロコだ。ミナコさんは記憶喪失で、この屋敷で保護しているのだ」

「えっと、ミナコ・キノです。それで、こっちが愛犬のロコです」

「ワン!」


 アムルドさんに紹介してもらって、私とロコは自己紹介をする。

 その時、ラナリアちゃんの表情が少しだけ変わった。どうやら、ロコが吠えたことに驚いているようだ。


「もしかして、ロコが怖い?」

「え? あ、そういう訳ではないのですが……」


 そこで、私は思わず質問してしまった。

 だが、この質問は少し間違っていただろう。初対面で、相手が抱いている生き物のことを怖いと素直に言える訳はないだろう。

 図太い性格なら話は別だが、目の前の少女は明らかにそうではない。ここは、安心させてから聞いてみるべきだっただろう。


「もし駄目なら無理しないで言ってくれていいよ? 犬が苦手な人がいることは、当然理解しているから。そんな人に無理して犬と対面させる方が、こっちは心苦しいんだ。だから、もし怖いなら言って欲しいな?」


 私は、ゆっくりとした口調でそう話しかけてみた。

 すると、少しだけラナリアちゃんの表情が和らいだ気がする。

 これは、私に対して少しだけ安心してくれたということだろうか。


「えっと……少し怖いです。でも、興味もあるというか……それが半々くらいです」

「なるほど……接したことがないから、怖いということかな?」

「そういうことです……」


 私の質問に、ラナリアちゃんはそう答えてくれた。

 どうやら、ラナリアちゃんは未知の生物に対して興味と恐怖の両方を抱いているらしい。

 それは、単純に怖いという感情とは少し違うものだ。まだ接したことがないから、怖いというだけなのである。

 それなら、まだ大丈夫だ。ロコが危険ではないということをわかってもらえばいいだけである。


「えっと……少し行儀が悪いですけど、ロコを机の上に下させてもらいます」

「あ、ええ、大丈夫ですよ」


 私は、アムルドさんに許可をとってからロコを机の上に下ろした。

 とりあえず、ラナリアちゃんにはロコと接してもらうことにする。それが、この問題に対する一番の答えであるからだ。


「ラナリアちゃん、ロコの前に手を出せる? 私が押さえているから、噛んだりは絶対にしないから安心して?」

「あ、はい……」


 私の指示に従って、ラナリアちゃんはロコの前に手を出した。

 その間、私はロコの体をしっかりと固定しておく。

 当然、ロコは人を噛んだりはしないはずである。だが、ラナリアちゃんはそんなことは知らない。そのため、私が見えるように押さえておく必要があるのだ。


「フン……」


 ロコは、その差し出された手の匂いを嗅いでいく。

 ロコは、基本的に人懐っこい性格だ。そのため、こちら側のことはあまり心配していない。


「それじゃあ、次はゆっくりと体に触れてみようか?」

「あ、はい……」


 私が次なる指示を出すと、ラナリアちゃんはそれに従ってくれた。

 ラナリアちゃんは、その手をロコの体にゆっくりと触れさせていったのだ。


「撫でてみて」

「は、はい……」


 さらに、ラナリアちゃんはゆっくりとその手を這わせていく。

 その表情は、先程よりもさらに柔らかくなっている。恐らく、ラナリアちゃんの犬に対する恐怖はほとんど消えているだろう。

 そのことに、私は安心する。この誘導がうまくいって、本当によかった。これでもう、怯えたようなラナリアちゃんを見なくても済むのだ。


「クゥン……」

「あっ……」


 そこで、ロコはラナリアちゃんの腕に頭を擦りつけた。

 それは、中々甘え上手な行動だ。この行動のおかげで、ラナリアちゃんもすっかり笑顔になっている。

 こうして、ロコとラナリアちゃんの触れ合いは成功したのだった。

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