第8話:勝手ながら、貸し1ということにして下さい
おはようございます。
状況は最悪でした。
最初に攻めてきたゴブリン3個小隊は、ただの陽動に過ぎませんでした。
たかがだ、3個小隊に攻めてこられただけで、アタフタしていた国がですよ……
24個小隊に、城が半包囲されているんですよ、そりゃ焦ります。
「シャレード! どう言うことかちゃんと理由を教えて」
「はっはー」
相変わらず優雅なことですね。
でも、今は、それじゃ許しませんよ。
すると、イーロインが前に出てくる。
かなり、顔色が悪そうだ。
「レンカ様、シャレード様……差し出がましいようですが、わたしに説明をさせて下さい」
「ええ、もちろん良いわ! シャレードもそれで良いわね」
シャレードは、小さく黙礼をしながら一歩下がった。
そして、イーロインの横に並びに立つと、軽く頷いて、説明の続きををうながした。
イーロインは、興奮すると一方的にまくし立てる癖がありますが、それでも、話が分かり易くて助かります。
てゆうか、3人が一緒にいるとデフォで骨が最初に話しかけてきますが、イーロんさんが最初っから説明していただいた方が、気が楽です。
私の精神衛生的に……ですが。
まぁ、それは置いておいて、イーロインさんの表情が暗いですね。
本当に、何がありました?
「レンカ様、カステリア本国から発したゴブリン3個小隊は、我がセプティミス国の国境付近まで移動した後、野営地を設置して駐屯していました。その情報はすぐにキャッチできたので警戒しておりましたが、今考えると、それ自体が罠でした」
「罠?」
確か、イーロインは、隣国のゴブリン3個小隊が、セプティミス国に攻めてきたと言っていましたね。
あれは、陽動のために――わざと分かりやすく――掴まされた情報と言うことだったのですね。
「はい……カステリア軍のゴブリン3個小隊は、そのまま、我がセプティミス国境を西方から侵入しました。レンカ様には報告したのはこの時点です。その後、ゴブリン3個小隊は、セプティミス領に点在している村々から、派手に物資を鹵獲しながら進軍してきました。しかし、それが陽動であったと気づいたのは、南の森林地帯および東の荒野エリアから、別働隊――合計21個小隊――が、隠蔽のスキルを使用しながら侵入してきて、24個小隊全てが、南方の丘にて合流した後でした。そして現在、セプティミス城の半包囲を展開するまでを許してしまいました」
イーロインは自分を責めるように、ワナワナと震えながら報告してきた。
別にイーロインの所為ではないと思うが……今は、それをフォローしている時間がない。
「そこまでは良いわ! イーロイン、逆に聞くけど、そのカステリアの作戦を看破できたとして、私達になにか手があったの」
「……いいえ、今回に限り、敵の作戦展開があまりにも早かったので、結果は同じだったと予測されます」
「だったら、この件は不問にします。それより、 ”降伏勧告“ の件は、どうしてこうなったの?」
「はっ、カステリア軍が半包囲を完成させた直後に、セコビッチ将軍の使者と申す者が城門前まで現れて、その……シャレード様が書状をお受け取りになられました」
シャレードが?
なぜ、宰相が自ら……
どう言うことですか?
「その使者は、どんな人だったの? 本当に使者だったの? 容姿や喋り方に何か違和感がなかった?」
「使者は、この度のセプティミス攻略軍の参謀で、カノープスと名乗りました。もちろん、カノープスもただのお使いに来たわけでなく、我が国の情報を取りに掛かっていると考えるべきでしたので、此度は、レンカ様のご指示を仰がず、まことに遺憾ではございましたが、城門前での受け取りとさせていただきました。それと、人柄などは直接お会いになられたシャレード様からの報告が適切かと思われます」
シャレードは、手のひらを上に向けて、肩をすぼめる仕草をする。
求められれば、答えると言ったところだろう。
「聞きたいわ! シャレード」
「はい、我らが――女王様――レンカ様のお御心の通り」
また、シャレードワールドが始まってしまうのですね。
良いわ、聞きましょう。
「イーロインの言う通り、いかにも私は、カステリア軍の参謀であるカノープス殿と対面しました」
“はっはー” とばかりに、礼をしながらその場で動かなくなった。
「そう……それで、どんな人だったのですか?」
めんどくせぇ!
「はい、彼のものは、軍属としては珍しく、高貴さと慈愛を持ち合わせた青年でした。降伏勧告を手渡すときも、全員の生命の安全を保証するから、くれぐれも無茶をせず、慎重な対応を望むと申していました。今頃の若者としては、なかなか好感のモテる青年でしたぞ」
「えっ、そうなの……」
シャレードの話しっぷりからして、カノープスって言う参謀さん、軍の中でも影響力がありそうですね。
恐らく、今回の仕掛けは、その優秀なカノープスさんが仕組んだものなのでしょう。
カステリア国の国力をもってすれば、セプティミス国など取るに足らない小国で、その気になれば鎧袖一触で蹴散らせるものを、わざわざ戦略レベルで大軍を動員し、更に戦術で優位な状況を作ってからの降伏勧告なんて不効率すぎですね。
なにか裏があるのでしょうか?
「それ故に、惜しいと思いませんか。レンカ様」
「ん? どういうことですか?」
「才能ある若い者の命を……無駄に散らすのは」
「……へぇ」
そうきましたか……
この状況で敵兵の心配をできるなんて、このお方は負ける気なんてサラサラない様子ですね。
初めて気が合いましたね。
実は私も勝った後のことを考えていました。
少し興味が湧いて来ました。
シャレードが気に入った青年に、私も会ってみたいですね。
それに、珍しく真面目そうな顔をしていますね。
シャレードの顔色なんて分からないので、雰囲気で言ってみただけですけど。
襟を正して、真摯な態度でこちらに向かって正対していますね。
なんだ、できるじゃないですか、そう言う態度。
「レンカ様の許しをいただければ、彼のもの、私にいただきたいと存じます」
「はい? えっ、え?」
シャレードは、慇懃に腰を折って、いつもの貴族が良くする礼の形をとるが、頭を下げずに顔だけがこちらを向いている。
ひええーーー
なんか、怖いのですが……
「実は、私……ああいった、青い青年が大好物でございまして、手取り足取り色々と躾けて見たいのですよ。ウヒヒヒ……よろしいですよね! 女王様」
シャレードの顎の骨がカクカクと動く。
あまりにも怖くて、コクコクと頷くことしかできなかった。
「ありがたき幸せ、必ずや最高の男に仕上げて見せますぞ」
ご、ごめんなさい、カノープスさん。
私は貴方を売りました……貸し1でけっこうです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「クシュン!」
ぞわわわわわ っ……
ブル!
「どうしました? カノープス様」
「いや、なんか凄い悪寒が走ったのだけど……あれは何だったのだろうか」
「風邪ですか? 少し休んだ方が良いですよ。カノープス様は働き過ぎですから」
「あっ、いや、そう言うのじゃないから、大丈夫だよ」
「本当ですか? それにしても、さっきのスケルトン笑っちゃいましたね」
「ん? 何でだ」
「だって、4人しかいない国のなのに……その国の宰相って言うだけでも烏滸がましいのに、あんなに形式張った態度で堂々としているのが逆に滑稽で、ほんと、どこの大国の貴族様だっつーの! ですよ」
「うーん……南風には、あれが、ただのスケルトンに見えたのかな」
「違うのですか?」
「いいや、僕にもスケルトンにしか見えなかったよ。でもね、だからこそ……」
「だからこそ?」
「いいや、なんでもない」
「それにしても、セプティミス国なんて大層な名前ですよね! そんな国、とっくになくなっちゃったって言うのに……バッカみたい」
「ははは、そう言ってやるなよ、大方、大セプティミス帝国の王族の生き残りか、傍系とかなんだろ。そんな輩が――セプティミスを冠した――国を立ち上げるのは、よくあることだよ」
「そんなの、昔むかしに、この大陸を支配した亡霊に踊らされてるだけって、なぜ気がつかないのですかね」
「南風は厳しいな……でも、僕たちだって、いまだに滅んだ国にしがみついているのは同じだよ」
「あっ……ごめんなさい」
「良いんだ、これは僕の矜持だからね」
「わ、わたしだって同じ気持ちです!」
「ふふ、今は良いけど、南風……そして、君の姉妹たちもだけど、いつか、君たちは自分の羽で飛び立っていかなければならないと覚えていてほしいな」
「嫌です!」
「まぁ、今は良いさ……」
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【A little extra sweet】
ここまお読みになっていただき、ありがとうございます。
明日も元気に更新します。