第2話:誰がために
おはようございます。
皆さんは初詣に行かれましたか?
どうやら私は、セプティミス第6代女王のカミラと言う女に騙されて、この国に連れてこられたみたいだった。
ある日、目が覚めたら……三匹のモンスターが、私のベッドのまわりに集っていた。
「では、シャレードさん」
「何なりと、女王様。私は貴方様の忠実なる僕でございます」
骨は仰々しく慇懃にお辞儀をする。
もう少しフランクにできないのでしょうか……骨なのに。
「私、日本に帰りたいのですけど……」
「はは、仰せのままに……しかしながら、日本とは? いったい、どういった場所でしょうか」
まさかのボケ返しですね。
いやいや、マジトークの可能性も捨て切れません……この状況では。
「冗談ですよね……人口で言えば世界10位ですが、GDPランキングに至っては世界3位の大国なんですけど。そりゃ日本国民のほとんどが『それ程の国』とは認識していないのはご愛嬌ですけど」
「さすがは女王様、ご博識でございます。愚臣へのご教示痛み入る次第でございます。であるならば、その日本とは……聖地アキバを守る防衛都市のことでございますね」
うーん……これは説明が難しいですね。
用語の定義を間違うと際限なく勘違いされそうですね。
てゆうか、本筋に戻りましょう。
今までは、あえて却下していた「ある仮説」に信憑性が帯びてきしまいました。
実はもう気づいているのですが……やはり、自分の心に嘘をつけませんね。
現実に目を背けることにメリットはないのですが、間違いであって欲しい的な感情が捨て切れません。
覚悟を決めて確認することが必要ですよね。
ほぼ確定だと思いますが……
「あのぉ……質問いいですか?」
「ははぁ! 何なりと」
「えーっと、ここは、もしかして異世界なのでしょうか?」
「さすがは女王様。その鋭い洞察力に感服いたします。おっしゃる通り、この世界は異世界でございます。ただし……まことに恐縮ではございますが、私どもはこの世界を異世界と称していません。もちろん、女王様のご出自からはそう言う表現をお使いになるのが正しいと存じております」
今日がエイプリルフールかハロウィンでなくて、この人達の姿が仮装でなければ、認めざるを得ない事実なのかもしれません。
それに、骨の方は慇懃ではありますが、敬意を持って真面目な話をしていると思います。
ここは私が住んでいた世界とは異なる世界なのでしょう。
しかし、私がここにいるのは偶然なのでしょうか。
私のような、ただの美少女女子高生がピンポイントでこの世界に選ばれた存在とは思えないです。
すみません盛りました。
カミラと出逢ったことに対しては、多少の運命的な何かを感じますが……
果たして、この世界に私の存在意義があるのでしょうか。
「そんな、私どうすれば良いの……」
「心配ありません女王様、女王様は我々臣下が命にかえてもお守りいたします」
「その通りでゴざいます。ゴブ」
「も、もちろんですわ!」
ますます不安ですね。
この3匹の方々からは、忠誠と責任感みたいなものはヒシヒシと感じますが、逆に言えば、私は守られなければならない存在ということですよね。
であるなら……いったい、何から守られるのでしょう?
「そのぉ、私が女王様なんて言われても、そんなのできない……」
「我々にお任せあれ、女王様は何もご心配することはございません」
そう言われても、心配しかないですね。
それにしても、この方、骨の癖に大仰な立ち振る舞いですね。
慇懃無礼とは言いませんが、段々面倒くさくなってきました。
そろそろ普通に喋ってもらわないとボキャブラリーが尽きますね、2重敬語とか考えるのが面倒なので、普通に無視していますし。
あれっ? 今の発言は、おかしかったですか?
いいえ、気のせいですね。
「そうは言っても……」
「女王陛下、この国のことは、ここにいる我々3人にお任せ下さい。必ずや陛下の御旗のもと、この国の発展を成し遂げてみせます」
まず……謝らなければならないことがあります。
みなさんの数助詞は「匹」ではなく「人」だったのですね。
大変失礼致しました。
「その通りです。軍のことは、俺に任せてください。ゴブ」
「わ、私だって! こ、国務は任せていただければ大丈夫ですわ」
ゴバブリン閣下が軍部で、イーロイン公女が国務ですか。
それとシャレードさん――骨の癖に洒落た名前ですが――臣下の代表ってことみたいなので、宰相とかのポジでしょうか。
「あのぉ、やっぱり日本には戻れませんか?」
「申し訳ございません陛下。我々にはどうすることもできません」
シャレードさんは、一応は良い人みたいですね……慇懃骨ですけど。
二心なく私の心配をしてくれているのは、よく分かります……鷹揚すぎて面倒骨ですけど。
それ故に、本当に日本に戻る方法はないみたいですね。
ズルイ発想をするならば、このままこの人たちを利用して、庇護してもらいながら日本に帰る方法を探すのが良いかもしれませんね。
私は女王みたいなので、そう言う命令もできるのでしょう。
しかし、それも私の価値次第……と言うことですかね。
普通に考えて、象徴君主が必要ならば、世襲制の方が権威を持たせやすいと思うのですが、なぜ私のなのでしょうか。
やはり、この左手の聖痕がポイントですね。
「あのぉ、今更ですが……私は何のためにココにいるのですか?」
「それはもちろん、女王陛下には我々臣下を生みだすという大切な役割がございますから」
およよ!
そっちでしたか……まさかの女王アリ的なやつとは!
これはチョット、ピンチかもしれませんね。
それって、苗床扱いですよね。
それもモンスターの……
それが本当なら泣いちゃいますよ。
「え? そんな、生み出すなんて私できません! そう言うの良く分からないし……」
「それは問題ございません。すべて我々が手ほどきさせていただきます。女王様はここで健やかにお過ごしくだされば良いだけです。御身のお世話は全て我らにお任せくださいませ」
それが嫌だと言っているのが分からないのでしょうか。
これは本当に日本に帰れないかもしれませんね。
「で、でも」
「なにもご心配なさらずとも、身を粉にして頑張るのは我らでございますから。特にゴバブリン閣下は張り切って何度も何度も陛下の元に訪れると思います。もちろん私も負けるつもりはありません。それと、イーロイン公女が意外と技者でして、彼女は女性ですが、そちらのスキルにかけては、必ずや女王陛下をご満足させると信じております」
これは、しくじりましたね。
ライトノベル系かと思いましたが、百合百合ありありのノクターン方面でしたか……って、そんなことはないですね。
この骨の方、わざとミスリードして私の反応を楽しんでいる疑惑がありますね。
骨のパーソナル情報を少し修正しましょう。
忠臣なのは違いないようですし、腹黒いとまでは言いませんが、意外と意地悪かもしれません。
まぁ、腹の中は全て見えていますが……骨ですから。
良いでしょう!
ここはカマトト作戦で乗り切りましょう。
地球の女子には、こう言う返し技があるのですよ、覚えておきなさい。
言葉遊びはやめて、そろそろ答え合わせをお願いします。
早めに引かないと拗れますよ。
タイミングを間違えると恥をかきますからね。
「すみません、何言ってるか分かりません」
「……」
意外な答えでしたか?
これを素でやられると、エロオヤジはシュンとしますね……仕掛けて来た罰です。
「コホン……それは失礼いたしました陛下。それでは、陛下にも分かるように詳しく説明させていただきます」
初めからそうすれば良かったですね。
「イヤー来ないで」って私が叫んでから「陛下何を勘違いされているんですか」とか言って、やれやれ感を出しながら正解を暴露すると、私はゆでダコみたいに真っ赤になってしまい、当分そのネタで弄られる……そんな近未来は御免ですね。
「それは助かります」
「……では、コホン」
骨は一枚のコインを差し出してきた。
なかなか凝った意匠のコインですね。
「これは?」
「これこそが我らの源です。このコインは『魔人コイン』と言って、私たちの可能性が入っています」
「魔人コイン?」
「はい。その通りでございます」
ふむ……
コインを媒体にしてデータを保管していると言うことでしょうか。
「……ごめんなさい、よく分からないわ」
「陛下、それは仕方がないことでございます。生命の起源については、我々の科学力をもってしても解明できていないのですから……ですが、このコインの使い方なら熟知しております」
科学力に、生命の起源ときましたか。
確かに、本当のことは誰も分からないと思いますねね、ダーウィンさんもお茶を濁しまくっていましたからね。
「そうですか……私は、そのコインを使って “何か” をするのですね?」
「はい、その通りでございます。このコインに含まれている可能性の1つを導いていただきたいのです。言い換えれば、このコインを使って新しい生命を生み出すのが女王様の役割でございます。ちなみに、我らもこのコインから生み出された存在でございます」
うーん……
異世界仕様で納得するしかありませんね。
コインの性能やランクに依存した配下を召喚する……
配下を増やして国を大きくする……そんな設定でしょうか。
まるでゲームですね。
できることならベリィ・ベリィ・イージーモードを所望したいです。
そこにイーロインが一歩前に出て口を挟む。
先ほどまでの笑顔ではなく厳しい表情だった。
「シャレード宰相ご報告です」
「何だねイーロイン国務大臣」
何か雰囲気が変わりましたね。
急に役職名呼びになったことに緊張感がありますね。
どこかでフラグを回収しましたか?
イベントが進んだようですね。
嫌な予感しかしませんが、さてさて何が起こりますでしょうか。
オープニングイベントで、ラスボスによる強制壊滅スタートは嫌ですよ。
「隣国の……カステリア国が攻めてきました」
はい?
うーん……そう言う設定でしたか。
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