感覚器官
「この世の中は、すべて人間の感覚器官が感知した幻に過ぎない。」
その説を実証しようとした博士がいた。
博士は違法に手に入れた人間のサンプルを使ってそれを行おうとしていた。
博士の説では、この世の中は本当は真っ暗闇の何も無い「無」の世界であり、人間の脳と感覚神経、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚が何らかの刺激を受け取っているだけであり、この世の中は、一種のバーチャルリアリティであるとのことだ。
博士は手始めに人間サンプルの視覚を奪った。
サンプル「あれ、目が見えない、真っ暗だ」
博士「よしよし」
次に触覚を奪った。
博士はサンプルの手を握った。
「何か感じるかね?」
サンプル「何も感じません」
そして次に味覚、嗅覚と奪っていった。
サンプルにはもう聴覚しか残っていない。
サンプル「博士の声は聞こえるけど、これもなくなるの?」
博士「人類発展のためじゃ」
そして博士は、サンプルからとうとう聴覚を奪った。
「そう、今、彼が感じているこれこそが、真の無の世界だ」
すると、博士にとって予想外の反応がサンプルに起こった。
脳内に就寝時に出る「夢」に関する箇所が猛烈に反応しているのである。
「彼は、もう一つの世界、いや、今我々がいるこの世界こそが幻なのかもしれない。もう一つの世界で生きている。「真の世界」で」
そして、彼の感覚器官をすべて元に戻して、博士は彼に質問をした。
「君はどんな世界を見ていた?参考に教えて欲しいのだが…」
「最初は何も見えない、聞こえない世界になって、不安で不安でしょうがなかったです。でもしばらくしたら、見えない、たしかに見えないんだけど、夢を見ている感じで、まるでハリーポッターの世界みたいなところにいた気がする」
博士「魔法が使えたのかね?」
サンプル「ええ、皆それらしいものを使ってました。ちょっと、今でも頭が混乱していて、うまく説明できないけれど、普段自分たちが見ている夢って実はもう一つの世界で、実は確かに存在しているのではないかと」
「平行世界か」
「よし、わしも行ってくる」
「博士、本気ですか?」
「ああ、本気だ。その世界に興味がある」
「機材の扱い方はわかるな?では頼むぞ」
「では、いきますよ」
サンプルは博士の感覚器官をすべて抜いた。
(博士、本当に大丈夫かな?)サンプルは思った。
そして3時間後、サンプルは博士の感覚器官を元に戻した。
すると、博士は、
「向こうに3年いた。妻も子供もある。早くあっちへ戻してくれ」
サンプル「えー?」
「あっちの世界は楽しすぎる。魔法も使えるし、美男美女ばかりだ。楽園へ戻りたい」
サンプル「でも、現実はこっちでしょ?」
博士「逆にこちらの世界こそ、人間の脳に縛られた仮想世界だ。私はあっちの世界こそが、真実の世界だと確信した。さぁ、早くもどしてくれ」
サンプル「じゃあ、僕も行きます!」
サンプル「魂って何なんだろうか」
現実と幻想の間を行き来した二人はとうとう脳の感知外の世界へと行って、そのまま帰ってくることはなかった。
脳こそがリアルバーチャルリアリティである。