新星あらわる
「なんだこいつは」
鞍上のクマダは驚愕の表情を浮かべる。
あの二頭に勝てるやつを用意した。お前に乗ってもらいたい。イリエにそう言われ即座に了承した。
実際に跨がってみてその走りっぷりにいままで感じたことのない手応えを感じた。
これなら、とクマダは思った。名伯楽イリエが用意した勝てる馬、その馬の名はキングオブザロード、命名者の期待が込められた往々しい名前だった。
この手の馬名はたいがい名前負けするものだがこの馬に限ってみればむしろその走りっぷりにふさわしい名前だったりする。
観客達もわかっていたようでレースでは圧倒的一番人気、威風堂々とした馬体でいかにもといったオーラを漂わせるその馬に期待を寄せた。
始まってみればレース自体は味気ないものだった。まるで用意された舞台のように最初から最後までキングオブザロードの独壇場だった。他の出走馬は引き立て役にすらならなかった。終わってみれば8馬身差の圧勝劇、しかも持ったまま。鞍上のクマダはただ乗っていただけというような状態だった。
確かにこいつなら勝てるだろう。しかし、だ。鞍上は俺でいいのか、もっとふさわしい華のある騎手がいるのではないのか、そう考えるクマダにイリエが声をかける。
「どうだ、こいつほどダービーにふさわしいやつはいないだろう。お前にとって最高の相棒だろ」
「確かに、しかし俺でいいんですか?他にふさわしい騎手がいるのでは」
「お前だからだよ。苦労した分、幸せになればいい。去っていく前に栄光をつかめ」
その言葉にクマダはふと思う。自分は大レースとは無縁の騎手人生を送ってきた。華があるわけでも人気があるわけでもない。限界を感じ、引退を決意した
これはイリエ調教師なりのせめてものはなむけなのだ。せめて最後は派手にかませと。
デビュー戦を派手に飾った新星に世間は沸いた。競馬フリーク達の間ではもう決まったようなものだと話題になっていた。しかし、これで終わりではない。世の中にはまだまだ怪物はいるのである。