次戦へ向けて
新馬戦ではあまり例のない一着同着という結果に観客は沸いた。その盛り上がりはなかなか覚めることはなく、現実に引き戻すように次の障害レースの出走馬が入場してきてもその興奮は続いていた。
かつては午前中の最終レースとして行われていたために昼休みの混雑対策と揶揄されていた障害戦だった。
「やりにくいな」
クマダ騎手はそうぼやきながらもこれはチャンスだと思った。この盛り上がりを利用して障害レースの認知度を上げようと思った。
他の騎手もそう思っていたようで皆やる気に満ちていた。
しかしそのやる気は空回りする。いいところを見せようという気持ちがありすぎて必要以上に競り合いミスを連発、落馬が相次ぎ完走わずか三頭という散々たる結果に終わったのだった。
「できないことを無理にやろうとしてもろくな結果にならないということだな」
イリエはしょげかえるクマダにそう声を掛けた。
「お前に汚名返上の機会を与える。あの二頭に勝てるやつを用意してあるからそいつに乗ってもらう」
「先生」
「俺の期待に応えられるか、裏切るかはお前次第だ。せいぜいがんばれ」
激戦を終えた二頭は獣医の診断の結果、何の異常も見られなかった。
二頭を目の前にしてフジイとタカダは話し合っていた。
「まさか同着とはねぇ」
「お互い負けたわけではないってことだな。勝負は次に持ち越しか。本番の前にぶつけるようなことはもうするなよ」
「しない、とは言いませんよ。こっちの都合もありますから」
「全く、お前ってやつは」
あきれながらもタカダは笑顔を見せた。
「まあいろいろと考えては見ますけど」
対するフジイも笑顔で応える。
お互い何かを得てわだかまりは解けたようである。
「さすがにあれには度肝ぬかれたなぁ。見込んだだけのことはある」
シュプリームはマドロームを誉める。
「俺自身がビックリしてるんだよ。あんな走りできたんだって。何か自信ついた」
マドロームはそう答える。
「俺がライバルと認めたんだ。次に俺と戦う時まで負けは許さん。せいぜい走り続けろ」
そうシュプリームは嬉しそうに言ぅ。
「その言葉、そっくりお返しするよ」
マドロームは言い返す。
シュプリームはそれには答えずその場を後にする
「止まるんじやねえぞ」
そう言い残して。