不思議な行動
人々の気持ちなど時は考えない。ただ淡々と流れていく時に身を任せるようなことはせず、彼らは彼らがやれることを行い、そのときに備える。
だが、時として自然は人に試練を与える。
「予報どおりだとレース当日に直撃か」
「中止もありか」
台風が近づいているとの情報があり中止になりかもしれないと不安にかられる。
「先輩、どうすれば」
「悪いがな。これからはレースが終わるまでは一切口を聞かない。俺たちは競争相手なんだ。通常なら和気あいあいとしてられるがこんな状態だ。いろいろと考えなければならない。おまえも騎手ならわかるだろう」
すがるように話しかけたミヤナカをイソダは冷たく突き放す。ただイソダの心中は色々と複雑だった。
(「俺だって助けてはやりたいんだがな」)
イソダはイソダで騎乗馬およびその関係者との関わりがある。対戦相手の一人であるミヤナカを助けるわけにはいかなかった。
「わかってやれ。あいつもいろいろあるんだから。それに大丈夫だ。中止にはならん。最悪日程がいくらかずれるだけだ。馬場も問題ない。どれだけ荒れてもうちのよりマシだろう」
不安そうな表情を浮かべるミヤナカを落ち着かせるようにカレンナビジンの関係者が話しかける。
「そうですね。やれることをやるだけですね」
ミヤナカは不安を打ち消すようにそう答えるのだった。
レースが近づくにつれ、天気は怪しくなっていく。3日前になって台風の到来を告げるように雨音があたりに響き渡る。
「やっぱりか。どうなるんだ?」
それぞれの陣営は不安を隠すことなくザワザワとしだす。
そんな喧騒のなかでもイソダは動じない。ただ馬場を見つめ何かを考えている。そして歩き出す。
「おい、どこへ行く」
だれかが声をかける。だがイソダはそれに答えることなく外へと出る。そして雨が降りしきる空を見つめつぶやく。
「いける。雨は止む。俺の勘はあたる。大丈夫だ」
イソダは何かを感じた。
「出せるか? まだ調教は済んでいないだろう」
「この状態でか? 大丈夫なのか。延期になるだろうに」
「心配ない。日程の変更はない。断言できる。俺を信じろ」
力強く断言するイソダに圧されて厩務員は馬を出す。
雨の降りしきる中、騎乗馬を走らせると思ったよりも軽快に走り出す。
「これはいい。考えていた以上だ」
好感触を掴んだイソダは満足そうに引き上げていく。
「あいつは一体?」
周りはそんなイソダを不思議そうに見つめる。そして、
「俺らもやるぞ、準備しろ」
それをうけて皆が動き出す。一気ににぎやかになっていった。
「先輩、あなたは一体……」




