こんな終わり方はいやだ
直線に入り3頭はお互いの位置など無視するかのようにただひたすらにゴールを目指す。残りの他馬など最初からいなかったように。
「もっとだ、もっとはやく!」
追い比べになりフクダは鞭をふるい続ける。
「もういい。ここまできてそんなことするのか」
クマダもウラタも心底呆れていた。こんな状況でもそんな演技をするのかと。
「違う、違うんだ」
フクダはそう叫びたかった。しかし今までの所業が彼に対する信頼を失わせていた。二人はフクダの存在を全く無視することにしていた。
傍から見れば3頭による追い比べ、最高に盛り上がる展開である。だが、フクダという存在を消した二人にとっては一対一のマッチレース、ゴール前での死力を尽くした追い比べであった。
「悪いけど……、弱点を突くのは常套手段。いかせてもらうよ」
ウラタはやや離れていた位置にいたキングオブザロードにあえて馬体を併せに行く。観客たちはこの場面でウラタが重大なミスを犯したと思った。馬体を併せる必要などなかったからだ。しかし併せられたキングオブザロードはそれを嫌がるように外側に斜行する。
そのおかげで減速したキングオブザロードにフクダの騎乗馬が追いつく。
「何をやっている?」
おいていかれたはずのフクダに追いつかれたクマダは騎乗馬に問いかける。
「まさか! こいつ……」
クマダはここにきて騎乗馬の弱点に気付いた。
「なんてこった。乗っている俺が気づかなかった弱点に気づいたというのか?」
だがクマダにはそれに気を取られている時間はなかった。
「いまさら…、なんだ、俺がカバーすればいいだけだ」
クマダは持てる力をすべて出し切るかのようにキングオブザロードの首を押し続ける。
「持ち直したか。だが、俺だって」
再び追い比べに持ち込んだクマダにウラタも応える。そこにフクダも参戦してくる。
だが、強引に割り込んできたフクダによってウラタの進路が塞がれてしまう。
「いい加減にしろ! 邪魔なんだよ」
それでもウラタはたちはだかるフクダを弾き飛ばすように外に追いやる。
外に追いやられたフクダはキングオブザロードの進路を塞ぐようにふらつくがクマダは冷静に交わしていく。
ゴール前直前の出来事に観客はざわつくがそんなことはお構いなしにレースは終わる。接触したウラタと避けたクマダ、その差がレース結果にそのまま繋がっていく。
あの出来事がなければとウラタは記者に聞かれていた。
なかっても結果は代わらない。どっちにしろ勝者は勝者だよ、とウラタは彼らを讃えた。
一方でフクダは針の筵であった。明らかな進路妨害、被害馬が先着したため結果は変わらないがフクダには厳しい処分が下された。
結果、当事者にとっては後味の悪いレースになってしまった




