次の戦いにむけて④
ゲートが開くやいなやこれ以上ないきれいなスタートを決めた一頭がどんどん後続を引き離していく。
「みごとだ。あのスタートは見習わなければ」
絶好のスタートを決めて先頭に立とうとしたウラタをさらに上回るスタートを見せた相手にウラタは心のなかで最大限の賛辞を贈る。
「あの野郎、なにやっているんだ。つかず離れずの位置で徹底的にマークするって話だっただろう」
作戦を無視して単独行動に走った仲間に憤る連中を無視して彼は先頭をひた走る。
「連中怒っているんだろうな。まあいい。そんなことは些細なこと。俺は勝負しに来ているんだ。勝てばいいんだ勝てば」
先頭を走る彼は後ろを振り返ることなくひたすらに走る。ただペース配分はきっちりと考えている。彼のとった戦略はよくある奇襲戦法である。一か八かの大駆け、こんなの持たない。いつかバテる。そい相手に思わしといてまんまと逃げ切る戦法、ハマるとこれ以上ない効果を生み出す。そして彼はこの作戦が成功したと勘違いした。3コーナーをまわってもリードは縮まらない。それもそのはず、他の連中はマドロームを意識しすぎて先頭のことを全く気にしていなかった。そしてマドロームはそれらの馬に完全に囲まれていてそこから出られなかった、いやあえて出なかった。普通ならどうしようかと慌てる場面だがウラタには焦りはなかった。むしろコイツラどうしようかと考える余裕すらあった。
「よし、コイツラには潰れてもらおう。さあ、本気を出すぞ」
先頭が4コーナーに差し掛かる頃マドロームは囲まれているにもかかわらず特に気にかけることなくペースをあげる。まるで前にいる馬を煽るように。
後ろからそんなプレッシャーをかけられその馬の騎手はたまらずペースをあげる。そしてプレッシャーに負けたかのように真横にふらついき、隣りにいた馬に接触した。その出来事をきっかけにマドロームを囲っていた集団はその囲いを解くことになる。そのスキにできた僅かな隙間をついてマドロームはスパートをかけ先頭を猛追する。
先頭は安心しきっていた。どう見てもセーフティリード、追いつけるわけ無いと。すっかり油断していた。所詮二流である。自分だけはあいつらとは違うと思っていても最後の最後で手を緩めるあたりするあたり何も変わりはしない。
そんな慢心もあって本気になったマドロームにゴール前できっちり差されている。かろうじて2着に入ったもののその表情からは出走権を確保した喜びはかんじられなかった。
「これが一線級、勝てるわけない」
そう思ったのは彼だけでない。マドロームのスパートについていけずに息も絶え絶えにゴールした他の者たちも同じ思いを抱いていた。
「思っていたよりもあっけなかったな。口ほどにもない」
ウラタは久々にマドロームに勝ちを味合わせられたことへの安堵感よりも彼らに対して何の手応えも感じられなかったことに対して不満を表すのだった。




