次の戦いにむけて③
「なんかやりにくい。完全にアウェーだよ」
「どんな状況でもきっちり勝って当たり前、以前の君ならわかりきっていたことだろう。ちょっと休んでいる間に随分と腑抜けになったものだ」
ウラタは競馬場に漂う異様な空気に呑まれかけていた。そんなウラタをさらに追い込むような言葉を言い放つ。
「なんか今日は厳しいな。なにかあったのかな」
いつもよりも厳しく対応するタカダにウラタは違和感を感じていた。だがそちらに意識を持っていったせいか幾分冷静になれたような気がしてきた。マドロームの出走する前に何レースか乗ってみた。乗ったレース全てに勝利したウラタに騎乗依頼をした調教師や馬主は満足そうにウラタを称える。
「よくやってくれた。次も頼むよ」
「機会があれば」
ウラタはただそう答るにとどめた。彼はマドロームに乗っていたお陰で再び脚光を浴び始めた。騎乗依頼は確実に増えていて断るのは一苦労だった。そのあたりの事情は依頼するほうもわかっていてあわよくばという気持ちで声を掛けた。今回たまたま空いていたおかげで乗ってもらったが次があるかどうかはわからない。有望な騎手は早くから確保しておきたい。そう思うのだがそういう騎手ほど手の届かない。そういう位置になりそうなウラタを今ならなんとかなるだろうと考える関係者は多い。今日のこの機会は絶好のチャンスである。
そんな争奪戦に巻き込まれた彼に十分な時間は与えられなかった。
気がつけばメインレースの出走時間となった。マドロームに跨がりパドックを周回し、コースに出てきた彼らを観客は大歓声で迎える。これが予選であるにもかかわらず。
当然彼らは一番人気に指示される。ただそれを苦虫を噛み潰したように見つめる集団がいた。
「いまだけさ、観客が青ざめるのが楽しみだ」
マドロームの完璧な仕上がりを目の当たりにしても、騎手ウラタの好調ぶりをみても彼らはまだ勝つつもりでいた。
「よし、お前ら。作戦は理解したな。俺らはマドロームを潰すことを第一に考える。誰が勝っても文句はなしだ」
その言葉に黙って頷く一同。だが彼らは一枚岩ではない。マドロームを潰すということは一致しているが誰もが相手を出し抜こうと考えていた。勝負なのだからそれでいいのかもしれない。だが中には最初から勝負を諦める者もいた。
「あの人たち、本当なら勝つことを考えなきゃいけないのに…
…。これじゃ勝てるわけない。悪いけどここは2着狙いだね。付き合ってなれないし。じっくりと走りを観察させてもらおう」
それぞれの思惑が漂う中、レースはスタートした。




