失意の後
「決勝線手前での出来事について審議をいたしました。エンドロール号が決勝線手前にて斜行しダークネスアロー号、シュプリーム号、マドローム号、およびプレセンシア号の進路を妨害したため、エンドロール号の着順を五着に変更し、それぞれの着順を繰り上げます」
アナウンスされた内容に場内はざわつく。
エンドロールの関係者にとってはまさに天国から地獄におとされたような感覚であった。
失意のまま彼らは帰路につく。重苦しい空気のなかエンドロールとイソダが合流する。イソダは覚悟していた。心ない罵声を浴びせられることも二度と騎手としての生活ができなくなることも。
だが誰もイソダに声をかけない。沈黙が周りを包み込むなか彼らは無言のまま本拠地まで戻ってきた。
「残念だったな……、とは言えないか」
少しだけ気が緩んだのか一人が絞り出すように声をだした。
「結果は結果だ。今さら何も変わらない。しかし、だ。幸いにも次がある。なあ、イソダよ。何をすればいいのかはわかっているよな。ミスを取り返せるのはミスを犯した本人しかできないだからな」
そう言われたイソダは無言でただ頷いただけだった。だがその頷きには力強い決意が感じられた。彼等の次の戦いはもう始まっていた。
「おめでとう、と言っていいんだよな」
「ええ、勝ったことになってますから、一応は」
声を掛けられたクマダは少し照れた表情を浮かべながら微妙な言い回しをする。
「わざとでないだろうがあそこでミスを犯した彼はそれまでの騎手だということ。あれがなければきみが一着だったと認めてくれたんだから素直に喜べばいい。勝者は少しは有頂天になってもいいんだよ。謙虚さはときには嫌みにとられることもあるからね」
次々に賛辞を贈られてもクマダは素直に喜べなかった。俺は本当に勝者なのか? クマダはそんな思いをずっと抱いていた。妨害されたから、それがなければ、そんなことはない。なぜなら俺自身妨害があったとは感じられなかったからだ。本当はどうなんだ。彼はずっとそんな思いを抱え込むことになる。そして
「悔しいっていえばくやしいさ、でもな、負けは負けなんだ。それだけは確かだ」
取材を受けていたウラタはなんでそんなことを聞くんだとばかりに苛立ちを隠すことなく答えた。重馬場、位置取り、進路妨害、言い訳はいくらでも考えられる。だが勝負に生きる者として言い訳することはみっともないことだとウラタは考える。だが彼もまた釈然としない思いを抱えていた。降着制度というルールがある以上仕方ないとはいえ、当初の着順通りなら素直にイソダを祝福できたのになぁと。果たして適用すべき事象だったのかと。淡々と敗因を語るルシエールを見ていると俺が間違えているのかとウラタは考える。また同じ想いをオシタニを抱えていた。




