決着
「決勝線手前での出来事について審議を行います。お手持ちの勝馬投票券は…」
そのアナウンスに観客はざわつく。
「なにがあった? 勝ったんじゃ……」
特にエンドロールの関係者は気が気でない。
ほどなくして判明した写真判定の結果はエンドロールの勝利を告げていた。が、審議は続いていた。
繰り返し流されるパトロールフィルムを見てもなにがどうなっているのか観客たちは理解できないでいる。しかし、別の角度、正面から撮られた映像からはおそらくこれが審議の対象になっているのであろうという現象がみられた。
「微妙だね、これは」
ある関係者は呟いた。
「大丈夫じゃないの」
ただじっと映像を見つめるイソダに誰かが声を掛ける。だがイソダは気づかない。
「やっちまったかなぁ」
イソダは心のなかで悔いていた。あれは俺のミス、よりによってあそこでかと
「引き続き審議を行っています。入着馬が審議の対象になっておりますのでお手持ちのの勝馬投票券は…」
改めてアナウンスが流れる。
「オレらには関係ないし、引き上げるとするか」
ウラタはやや悔しさをにじませながらもオシタニやルシエールに声を掛ける。
「いや、関係あるかも」
「どういうこと? 俺らは負けたんだ。なにがどう変わるんだ」
ルシエールの言葉にウラタはイラついていた。
「落ち着いて。確かに負けたが。勝者を讃えるまで居よう」
ルシエールは冷静だった。改めて映像を見直す。
「これはねぇ」
クマダは一縷の望みを繋いでいた。決勝審判はちゃんと見ていてくれたんだ。あれは明らかにルールに抵触する。判定は変わるはずだと。
関係者にとっては長い長い時間、永遠かと思えるくらいに感じらるれるほどに、しかしそれはやがて終わりをむかえる。
審議のランプが消えて変わりに青赤ランプが点灯する。それは降着を意味する。そしてその対象は一着入線のエンドロール、一着のところに表示されていたエンドロールの番号は五着に変わっていた。そして一着にはダークネスアローの番号が表示されていた。
「なんで、なんでなんだ」
エンドロールの関係者は憤っていた。優勝どころかダービーの出走権すら逃した。が、これで確定した以上どうにもできなかった。
「よし」
喜びを爆発させるクマダとイリエ、そしてダークネスアローの関係者、その傍らでイソダはただその光景を見つめていた。
そんなイソダに誰も声を掛ける者はいない。いや、できなかった。彼は今にも零れそうな涙をみせまいとただ堪えていた。
観客に向けてアナウンスが流れる。
「審議の結果…」




