駆け引き⑤
「珍しいね、そんなのに引っ掛かるなんて」
体制を整え再び追撃を試みるクマダであったがその横をオシタニとウラタが通りすぎていく。その際にウラタは哀れむようにクマダに向かって呟いた。
クマダにはそれが屈辱のように思えた。引っ掛かる自分が悪い、と同時にダークネスアローに対して申し訳ないという気持ちも湧いてきた。
「これで終わらないよな」
クマダの言葉にダークネスアローは全速力でエンドロールを追う。だがその前にプレセンシアとマドロームが壁となってたちはだかる。
先頭のエンドロールは余裕を残したような感じで4コーナーを駆け抜ける。観客はエンドロールの勝利を確信していたようであったが鞍上のイソダには不安がつきまとっていた。
その不安は的中する。後方から足音を響かせプレセンシアとマドロームて二頭が追いかけてくる。まだこいつらがいた。イソダは気合いを入れ直す。
「もう少しだ。もう少しだ。持ちこたえてくれ」
祈るような気持ちでイソダはエンドロールに鞭を入れる。その気持ちが通じたのかエンドロールの脚色がよくなる。だがそれ以上に後方二頭の脚色はいい。
「仕掛けるぞ」
ウラタは気合いとともにマドロームに鞭を入れる。それに応えマドロームはエンドロールとの差をみるみる縮めていく。
「ほら、いくよ」
ウラタが鞭を入れるのと同時にオシタニはプレセンシアに鞭を入れる。プレセンシアもまたエンドロールとの差を縮めていく。
ウラタもオシタニも前方のエンドロールしか見えていなかった。イソダもまたその二頭しか見えていなかった。そのおかげでもう一頭の存在を忘れていた。
「どうやら私の存在をお忘れのようですね。非常に腹立たしいことです。目にもの見せてやりましょう」
オシタニにもウラタにも確かにそういう声が聞こえた。思わず後方を振り返る。
そこには誰も気づかないうちにいつもまにかシュプリームが争いに加わろうとしていた。
シュプリームは並ぶまもなく二頭を交わしエンドロールに並びかける。だがエンドロールはそれを許さない。そして一度は交わされた二頭も再び食い下がる。ゴール前の白熱した争いに観客は熱狂する。そしてそこにもう一頭加わろうとしている馬がいた。
「まだだよ。まだあきらめきれんよ」
クマダはまだあきらめてはいなかった。一発鞭を入れられたダークネスアローは争っている四頭に迫る。そしてその五頭の馬と五人の騎手は集団となってゴールを目指す。だがエンドロールか優勢なのは変わらない、ように思えた。だが異変が起こる。残りわずか10メートルといったところでエンドロールの脚色が鈍った。
「どうした? ここまでなのか、まだゴールしてないぞ」
イソダは叫ぶ。最後の力を振り絞りイソダはエンドロールをゴールへと導く。最後の最後で五頭はひとかたまりとなってゴール版を駆け抜けた。その場にいた大半の者はエンドロールが勝ったと思った。だが結果を告げる表示版は写真判定を示すとともに審議ランプを点灯させていた




