駆け引き
雨水を大量に含んだ芝コースは出走馬にとって競走相手よりも厄介な存在になっていた。それは不良馬場に慣れていたダークネスアローにも襲いかかる。これまでにもない絶好のスタートをきったエンドロールは内に切れこむことはせずそのまま直進する。
「荒れた内ラチ沿いを避けるつもりか」
逃げ切りに失敗したクマダは追走をあきらめ単独二番目の位置を選択した。進路妨害にならないよう後続を気にしながらも内ラチにコースをとる。距離を余分に走ることのないようにしたかのだが内ラチはかなり荒れていて体力を削っていく。だがこんなコース状況を得意とするなら持ってくれるだろうとクマダは判断した。
「よし、いける」
最高のスタートを決めたエンドロールに手応えを感じたイソダは最初のコーナーに差し掛かるころになって初めて内ラチ沿いにコースをとっていく。外よりは荒れている芝ではあったがエンドロールに気にする様子は見られなかった。イソダはここで誰にも気づかれないように徐々にペースを落としていきマイペースに持ち込んでいく。
やや離れた位置にいたダークネスアローの鞍上クマダはエンドロールの作戦にのることにした。後続に気づかれないようにエンドロールのペースに合わせていく。
「いいだろう。最終コーナーまでこのまま付き合ってやる」
こんな駆け引きをよそに後続はダンゴ状態のままコーナーに差し掛かる。
「うーん、ダメみたい」
馬ごみに揉まれながらもオシタニの指示に従い中団で待機していたプレセンシアではあったが他馬が撒き散らす水しぶきを浴びて集中力がなくなっていく。状態を心配したオシタニはプレセンシアを外に持ち出した。
「おい、ちゃんと周りを見ろ」
持ち出したところにいたシュプリームと接触しそうになり鞍上のルシエールは思わず叫ぶ。
激怒したルシエールであったがすぐに冷静になる。ルシエールは接触を避けるため外にだしたのだがそれが後方にいたマドロームの進路を妨害するような形になった。
「まずい」
ルシエールはわざと隙間を開ける。その意図を理解したウラタはマドロームにその隙間をつかせて前にでる。こうしてルシエールは進路妨害を帳消しした。
後方集団もまた序盤から駆け引きを繰り広げていた。
後方集団の前方に出たマドロームはさらに集団を引き離す。
第一コーナーを過ぎたあたりで単独三番手の位置にでる。
「このまま行く。ここなら自分のタイミングで勝負できる。あの二頭がどこまで引っ張っていけるかだけど」
ウラタは展開を考える。彼は前だけを見ていた。そのお陰でヒタヒタとプレセンシアが近づいてくることに気付かなかった




