戦うは馬だけに非ず③
空はこれまでの鬱憤をすべて晴らしたかのようにどんどん青さを取り戻していく。それにともない馬場はどんどん乾いていく。
「どうしようと思っていたけど……。このまま晴れてくれれば。本番までには乾ききってくれるはず」
イソダは自分の思う競馬ができるよう空を仰ぎつつ願った。その思いが届いたかのように晴れ渡っていく。
「いけそうだ」
本番前に何レースか騎乗し感覚をつかんでいくウラタとルシエール。このまま晴れていてほしいものだとお互い話している。
その一方でオシタニは不安を抱えていた。
「馬場が想像以上に荒れている。たとえ乾ききったとしても本来の走りができないかもしれない。それに……」
彼女の不安を感じとったマツイ調教師は手を打つ。
「メンコを付ける。急ぎやってくれ」
彼もまたこの状況を懸念していた。使う必要がなければと思っていたものの、この馬場ではやっぱり使わざるを得ないか、と。彼は芝コースの土がいつも以上に飛び散ってプレセンシアの顔を直撃することを心配していた。プレセンシアは思っている以上に繊細な馬、どんな影響がでるのだろうか、せめてメンコをつけることによって直撃の影響を軽減できればいいかなと着用を決断した。
「やはり嫌がってますね」
「ないほうがいいかな」
「いや、無理矢理にでもつけておこう。そのうち諦めるだろう」
マツイの指示をうけて厩舎スタッフによりプレセンシアにメンコをつける作業が始まっていた。
「あちらはなんかやりだしたぞ。うちは大丈夫か?」
「なにもしなくても大丈夫です。雨が降らなければ多少重馬場だろうが問題ありません。バンテージを多めに巻いていますから負担は軽減できます」
「今まで経験したことない状態だからな。集中できるようブリンカーをつけておこう」
刻々と出走時刻が迫るなか各陣営は各自とれる対策をとろうと試行錯誤を続けていた。
「みんな慌て出したように動き出しています。うちはどうします」
「下手に動くな。当初の予定通りだ。このままいく」
周りの動きをみてうちは大丈夫かとイリエのもとに指示を仰ぎにきたダークネスアロー担当スタッフに対しイリエは予定通りだと特に指示は出さない。焦るな、天は我に味方したとスタッフを宥める。
その動じない姿勢に根負けしたのか空は再び雲を集め出した。
やがて空はどす黒くなり天気は急変する。本番レース2レース前に再び本降りとなった雨は乾いていた馬場を再び濡らしていく。そして直前になってどしゃ降りとなってレースコースをびしょ濡れにしていき、所々水溜まりができた不良馬場となって出走馬を迎えるのであった




