戦うは馬だけに非ず
出走予定の各陣営はそれぞれ思い思いに過ごしていた。不安を抱えるものはいない。やれることはやってきた。あとは本番を待つのみだと自信をみなぎらしていた。
軽くジョギング程度のスピードで走っていくプレセンシアの横を全力で駆け抜けていくマドロームとシュプリーム、それに乗る調教助手二人はそれを止めようと必死に宥めている。
「だから止めようと言ったんだ」
「まさかこれほどとは」
二頭を管理する調教師二人はそれぞれ頭を抱える。
本番までは顔を合わせさせるな、会わせれば張り合うだけだから。そう申し合わせたはずなのに。
それなりに気を配っていたはずだがそれでも二頭は顔を合わせた。その結果がこれである。
「おいおいいい加減にしろや」
だがその張り合いに割って入るものがいた。
「なんだよ」
「なんだよ」
二頭同時に声をあげる。
「いや、だって今争っても無意味でしょ。レース本番までとっておきましょう。もっとも記者さんたちにはいいネタ提供したみたいだけど」
そう言われて二頭は自分たちの行いがいかに無意味であったか同時にいうことを感じたのだった。
「ところであんたは?」
「これは失礼、ダークネスアローって名前がついているだけどね、知らないだろうけど。一応俺も出るんでね。有力視されているあんたたちにこんなことしてほしくなかったんだよ。冷静になってくれてよかった。全力を出してくれなきゃ勝ったときに評価されないし。じゃあね、楽しみにしているよ」
「なんだあいつは。俺らに勝つつもりか、生意気にも」
「そうだな。なんかムカつく」
ダークネスアローが去った後、そういう会話をするマドロームとシュプリームの二頭。それを遠目に見ながらプレセンシアは呟く
「彼らの勝ちはないな、私の見込み違いか。まあ挫折するのもいい経験か」
プレセンシアは感じていた。確かに彼は最後の一枠に滑り込んだただけの無名馬、だけど抽選を勝ち抜いた、彼は持っていると、と同時にこれは順調にはいかないなと。
イソダはエンドロールを軽く走らせながらも違和感を感じていた。エンドロール自体には何の問題もない。むしろできはいい。あとは本番までこの状態を維持できればいい、だけど……。
そして気づいた。
「これは……、馬場か。いままでとは違う感触、違和感の原因はこれか」
途端に彼は不安に駈られる。
「何てこった」
エンドロールだけではない。シュプリームやマドロームにとっても不安材料、こんな馬場状態では持ち味が生かせない。
しかし一人この馬場状態を喜ぶ者がいた。ダークネスアローを管理する調教師イリエである。イリエは天気予報を見ていた。
予報は告げていた。レース当日は大雨になると




