レースは佳境に
「各馬一斉にスタート」
実況の声が響き渡るなか各馬はこれ以上ないきれいなスタートを切る。まずはそれぞれが思い描くレース展開に持ち込むべく思い思いの位置へと移動していく。だがそれを無視するがごとく飛び出したものがいた。
「あいつやりやがった」
それを見た各騎手はあわれみの目を向ける。
「あ〜あ、あいつ終わったな」
この大舞台で大観衆の声に興奮したその馬はゲートが開いた瞬間その興奮を押さえきれず最初から全力で走り出したのだった。
「あれで最後まで持つわけがない」
誰もがそう考える。しかしオシタニはそう考えなかった。何が起こるかわからない。一か八かやってみる。そう考えたオシタニは後を追いかける。
「おい、お嬢ちゃん止めとけ。どうせ潰れる」
他の騎手たちは止めるがオシタニはそれを聞き入れることなく先頭を走る馬を追いかける。
「若さゆえの過ちか、これもいい経験になるだろう」
ベテラン騎手はそう考えた。他の騎手もそう思った。だからどんどん離れていく二頭を見ながらも余裕であった。二人を除いて。
「若いのにいい判断だ。年取ると常識にとらわれる傾向が出てくるからな。さて、あいつはどうするかな」
シバヤマはキタイの様子をうかがう。キタイは二頭の動きを見て一団の先頭へと位置を変え様子をうかがう。
「ほう、さすがだ。せいぜい盛り上げてもらうとするか」
シバヤマは自らの作戦通りにことが運んでいることに安堵する。
先頭が最初のコーナーに差し掛かるころオシタニはついに追い付いた。その頃には先頭を走る馬も落ち着きを取り戻しペースを落としはじめていた。だがオシタニが追いついたことでマイペースにもっていくタイミングを逃していた。
「気づいたのか? まさかね。たまたまだろう」
騎乗していた騎手はあまりにもスタートが良かったので馬の行く気に任せてここまでなにもしてこなかった。手ごたえはよくあわよくばと思っていた。
「そううまくはいかないか。あれを先に行かす。おとなしく言うことを聞いてくれよ」
オシタニを先に行かそうとしたがオシタニはそれを望まなかった。二頭は馬体を合わせたまま次の最終コーナーに入っていく。この状況下においても後続はまだ楽観視していた。最終コーナーの出口で仕掛ける、それで簡単にかわせる。そう考えていた。しかし、それは甘い考えてあったことを彼らは思いしる。キタイとシバタニが彼らの考えを見透かしたようにスパートを開始した。後続を置き去りにして彼らは先頭の二頭を追い詰めようとしていた




