はじまりはじまり③
レース開始直前、ゲート入りを控え各馬はスタート位置よりやや離れた場所で輪乗りをおこなっていた。それぞれの騎手は思い思いの戦略を描く。
オシタニはふとスタンドを見る。ここからスタンドは離れており観客たちの歓声は普通届かない。なのにオシタニは自分に期待をかける観客たちの歓声がここまで聞こえてくるように感じていた。
「はは、私ったらものすごいプレッシャーを感じているのね。そんなの感じる必要ないのにね」
オシタニは自分はそんなに期待はかけられていないように思っていた。前評判はそんなによくなかったから。騎乗しているライラプスはそれなりに評価されてはいるが騎手がオシタニということでそこがマイナス評価になっていた。むしろミヤナカとカレンナビジンに期待がかけられていた。
一方、その期待を背負ったミヤナカは気負っていた。その小さな背中にはその観客だけでなく地方競馬関係者の期待をも背負っていた。だからこそミヤナカは一発かましてやろうと戦略を考える。待ち受けるのは百戦錬磨の騎手たち、生半可な作戦は通用しない。それでもここにいる以上勝てるはずだと今か今かとやる気になっている相方を頼もしく思うのだった。
「ふん、くそが」
そんなミヤナカを睨むように見るキタイ、苦々しい思いを胸に秘め勝つのは俺だと気合いを入れ直しゲートに向かう。
そんな気合いを入れてゲートに向かうそれぞれの人馬、しかしシバヤマは普段と変わらない気持ちでレースに望んでいた。
「若いっていいな。なんにでも気持ちが入っていて好感が持てる。だがな、みんな馬鹿にしているけどこいつの力を甘く見るなよ。レースが終わった後が楽しみだね」
シバヤマには何か秘策があるらしく軽く笑みを浮かべながら輪乗りをおこなっていた終えた他馬とともにゲートに向かう。
ファンファーレが鳴り響きレースの開始を告げる。誘導員に導かれなから各馬ゲートに入る。
すべての出走馬がゲートに入りその場にいるすべての人たちの視線が一点に集中する。静寂に包まれたその瞬間ゲートが開く。各馬が一斉にスタートを切る。各馬の人生を掛けた二分弱のレースが始まった。




