はじまりはじまり
それぞれがそれぞれの思いを抱えて時間は過ぎていく。そしていよいよ若駒たちに勝負の時は訪れる。
本番前にすでに激戦を繰り広げた各馬も今日はどこかのんびりしている。完全にたんなる傍観者になっている。
それもそのはずこの週彼らの出番はない。しかし彼らはなんとなく集まってきてていた。今日は乙女たちの戦い、チェリーカップが行われるため直接は関係ないとはいえ興味津々とばかりに見いっていた。
注目はカレンナビジン、前走で圧倒的な走りを見せつけた彼女をもはや客寄せパンダだというものはいなかった。
「よくぞここまで」
地方競馬の関係者は今まで夢の夢だったこの晴れ舞台に出走馬を出すことができたことに感涙の涙を流していた。
「ちょっとちょっと。まだ始まりもしていないのになに泣いているんですか。これからですよ。ここから伝説が始まるんですよ」
カレンナビジンの勇姿を眺めなから涙を流す代表を軽く非難するように付添人が諭す。彼はカレンナビジンに明るい地方競馬の未来を思い浮かべていた。
「はあ〜、やっぱり緊張するなぁ。前とは雰囲気が全然違う」
ミヤナカは前走とまったく違う雰囲気に呑まれそうになっていた。
「あなたもですか」
どうしたものかと戸惑うミヤナカに声をかける者がいた。
「あ、いえ、まあ」
声をかけられどう対応していいかわからず、変な感じで返答してしまい恥ずかしい感じになってしまったミヤナカだったが
「緊張するなっていっても無理かもね。私もこうやってしゃべりまくることで緊張をほぐしているようなもの」
「あなたもそうですか、助かりました。声をかけられたことでいくぶん気持ちが落ち着きました」
声をかけたのはオシタニ、同じ女性ということでつい気が緩んだのかもしれない。
「実力を出せないまま終わりたくはないでしょう。お互い頑張りましょう。月並みなことしか言えないけれど」
「こちらこそよろしく」
二人の間になにやら友情が生まれたようである。
時間は進む。出走時間が近づき各馬はパドックでの周回を始める。カレンナビジンげ周回を始めると雰囲気は盛り上がる。いつもと違う雰囲気にカレンナビジンはついつい興奮し始める。
「まずい。これでは走る前に終わってしまう」
カレンナビジンの手綱を握る厩務員は興奮する彼女を落ち着かせるべく馬体を優しく撫でながら鼻歌混じりに独り言を喋りだす。彼女の耳に聞きなれた声が聞こえてくると彼女は落ち着きを取り戻す。
「よかった。これでだいじょうぶ」
厩務員も落ち着きを取り戻す。やがて聞こえる。
「とま〜れ〜」
各馬は一斉に動きを止める。
やがて騎手が登場し、それぞれの騎乗馬に向かっていく。最後の周回を終え、各馬はコースに入場していく。




