事故の影響
悲しい出来事があり、しばらくは騒然としていたが時間がたつにつれて何もなかったかのように落ち着いていく。
予選はすべて終了し、出場が決まった各陣営は本番に向けてそれぞれ準備をはじめていた。
「まだまだだ。この程度でへばるな」
ウラタの激が飛ぶがどうにもマドロームの反応は良くない。
「レースの反動がでているようには思えないのですが」
ウラタの意見にタカダは首を捻るばかりでまともな答えを出すことができない
「一応は獣医にも診てもらったがどこにも異常は無いそうだ。精神的なものだとすると厄介だな。何が原因かわからん。当面は調教は軽めだな。とりあえず森林馬道にいれてみよう」
調教師の指示により翌日マドロームは競走馬のストレス軽減を目的とした施設、森林馬道にて軽くジョギングのような感覚で走っていた。
「何を悩んでいるんだろうな。俺はただ走るだけ、落馬するのは騎手が悪い。何があっても俺は悪くない」
マドロームはそう考えることにした。ウラタやタカダはあれこれ考えた末に大一番を控えた陣営のスタッフがピリピリした雰囲気を醸し出していたのを敏感に感じていたからだと結論づけたようだ。本当は落馬事故で死亡者がでたのがショックだったのだがそんな事は彼らにはわからない。ただマドローム本人はある程度気持ちが落ち着いた。タカダの判断はいい方向に向かっていた。
「あんなの見せられたらなぁ。そらぁショックかもしれんが競馬にはああいうこともある。改めて競馬というものかわかっただろう」
事故の後、すっかりやる気を失くしたオシタニをマツイはなんとかやる気を出してもらおうと色々と話かけていた。だが、一向にオシタニの心は改善しない。これでやる気にならないなら引退もやむを得ないかとマツイは覚悟を決めていた。ただオシタニ自身が引退を口にしない限りはただ待つことにしていた。
当の本人はというと自分自身がどうしていいのかわからないといった感じでただ悩むばかりであった。その一方でプレセンシアはただひたすらに調教に打ち込んでいた。いつ相方が戻ってきてもいいように。
「俺はさあ、あんなやる気のないやつに勝ってもおもしろくないわけよ。なんならお前、出てこないか」
シュプリームは骨折から復帰しようとしているキングオブザロードに話しかけていた。
「なにを言っているんだか。俺に対する当て付けか。そういうことは勝ってから言え。俺は自分のことだけで精一杯だ。他人のことまで構ってられない。エンドロールがこっちにきたら相手してもらえ。あいつならいい感じで相手してくれるだろうさ。」
ここにはいないエンドロールのことを思うシュプリームはやる気を出した。
「そうだ、まだあいつがいた。あいつなら必死になってかかってくるはずだ」
それぞれの陣営で思惑が交差していた。




