後味悪い終わりかた②
プレセンシアが大差をつけてゴールする直前、観客席から悲鳴があがった。俺はは最初自分に対する観客席からのなんらかの意思表示かと思った。だかゴールした後も観客はざわざわしていた。少なくとも勝者に対するものではない。ふと後ろを振り返ったオシタニは惨状を目にする。
オシタニの目がとらえたのは倒れこんだ人馬、馬のほうはなんとか立ち上がってくるが人は一向に立ち上がる気配がない。それでもこの転倒に巻き込まれなかった外にいた者は無事ゴールしたが事故に巻き込まれた五人の人馬は相当なダメージを負った。当然このレースは審議になった。
オシタニは精神面にかなりのダメージを負った。この事故
には関わっていないし瞬間を目撃したわけでもない。それでもかつては落馬事故の原因をつくったウラタを激しく非難していた自分が乗っていたレースで落馬事故が起こったことにショックを受けていた。
顔面蒼白になりながら帰ってきたオシタニに対し調教師マツイは励ますように語りかける。
「お前は関係ない。心配することはない」
当初、マツイ調教師はオシタニが審議の対象になったことを心配しているかと思っていた。だからこんな声のかけ方をした。しかしオシタニはただ首を横に振り
「違う、そうじゃない」
という意思表示をするのが精一杯だった。
やがて設置されてある全てのモニターに事故の様子を記録したパトロールフィルムが流される。
プレセンシアにかわされた後、新人騎手にバテて足をなくした馬を立て直す技量はなかった。ずるずると後退していくがただ後退していったわけではなかった。
ふらふらとしながらあろうことか外側によれ出した。うしろからきた馬達にとってはたまったものではない。あわてて避けようとするがそう簡単に避けきれるものではない。一団となり密集状態であったため行き場を失った馬はつぎつぎと衝突していく。衝突のはずみで投げ出された騎手は後続の馬に撥ね飛ばされその場にうずくまって動くことすらできない。撥ね飛ばした馬も人につまずいて転倒、騎手を振り落としてしまう。こういう多重事故になってしまい、五人の騎手が落馬負傷となってしまった。
事故が起こった状況を確認してオシタニはその場にうずくまって動くことができない。マツイ調教師はそんな状態のオシタニを抱き抱えるように奥の治療室に連れていく。治療室のベッドに寝かされたオシタニはそのまま気を失ってしまう。
落馬した騎手は直ちに緊急搬送され適切な治療のおかげで一人を除いて命に別状はなく三ヶ月もすれば復帰できるであろうとのことだった。
その一人は落馬の際後続の馬に頭を蹴られて深刻なダメージを負っており、懸命な治療のかいなくその短い生涯を終えることとなった。その騎手とはこの事故の原因をつくった新人騎手であった。




