後味悪い終わりかた
レース当日になってオシタニは一抹の不安をおぼえた。プレセンシアの様子がいつもと違うからである。マツイも同じ感情を抱いていた。レース前だろうといつもと変わらず飄々としているプレセンシアが今日に限ってはやたらとチャカついている。いつもよりも楽なレースであるはずなのにどういうことなのだろうか? 事の真実はプレセンシア本人だけが知るのみである。
「一通り見たところこれといって勝負になるような強いやつはいなさそうだ。
さあ、いかにして勝つか」
プレセンシアはこのことだけを考えていた。しかし、プレセンシアの頭のなかではマドロームとシュプリームが言っていた内容はどうであれとにかく勝つことだ、という言葉に反発するように苛立ちに溢れていた。
「見ていろ、私の勝ちぶりを」
普通に走れば勝てるレースなのにプレセンシアは気持ちを抑えきれずに冷静さを失っていた。
そんな気持ちを知ってか知らずか時間は瞬き間に過ぎていく。
レース直前、ゲートに入るプレセンシアが異常に気合い乗りしていることにオシタニは気づいてはいたがもはやどうもできない。不安を抱える間もなくゲートが開きレースはスタートした。
変な気合いをみせたプレセンシアはオシタニの制止も聞かずに最初から全力でとばしまくり他馬をどんどん引き離す。単独で先頭にたったとプレセンシアは思ったがふと横を見た瞬間、彼の馬体にピタリとあわせてくる馬がいた。
「一か八か勝負だ」
いったいったの勝負にもちこもうとした騎手はまだまだ経験の浅い新人騎手、大本命のプレセンシアを負かして名乗りをあげようとでもいうのだろうか。だがこんな無茶をする相手がいたおかげでプレセンシア自身は冷静さを取り戻せていた。
スタート直後の暴走で体力を消耗したとはいえ、落ち着きを取り戻したプレセンシアは相手をじっくりと観察すべく一旦相手を先にいかせようと若干ペースを落とす。それは鞍上のオシタニの指示でもあった。やっと言うことを聞いてくれたと安堵するオシタニに対し心のなかで謝罪するプレセンシアであった。
プレセンシアがペースをおとしたのは意図的なものであった。だが相手の鞍上は新人騎手、その意図に気付かずバテ始めたと勘違いした。それでここが勝負時とさらにペースをあげる。まだ三コーナーの入口にもかかわらず。
その様子を心配そうに見つめるオシタニ。あんなんでもつわけがない。そう思った。案の定四コーナー出口で完全に足は止まりプレセンシアはあっさりとかわしていく。あとは全力を出すことなく余力でゴールできるほどのリードを保ちつつプレセンシアはゴール前を通過する。終わりだけ見ればプレセンシアは楽勝したことになる。だが、このレースは後に禍根を残すことになる後味の悪い終わりかたをする。すべての原因は新人騎手にあった




