どうでもいい決意
エンドロールとマドロームの戦いは同じ舞台を戦う者たちの心を響かせた。全力を尽くし、力尽きるまで戦う、結果など二の次、競いあうこそすべて、そう訴えかけているように思えた。そしてマドロームやシュプリームたちのライバルとしてプレセンシアがトリを務めんと最終のトライアルレースに出走する。
「無理をするなよ。普通に走れば普通に勝てるんだから。たぎる気持ちは本番までとっておけ」
あのレースを見てならば自分もと意気揚々としているのではないかと心配したマツイ調教師はオシタニに対し一応はクギを刺しておく。
「何も思ってませんよ。あんなのやれと言われても無理ですから」
オシタニはそう言うがマツイ調教師の心は晴れない。レース展開によっては無茶をする必要が出てくるかもしれない。そうならないよう比較的相手関係が楽なレースを選んだ、とマツイは思う。親の心子知らずというか調教師の心配をよそにオシタニは気楽に構えていた。まあそれでいいか、変に気負うよりかは。マツイはオシタニを対しそれ以上は何も言わなかった。
騎手がそういう気持ちであるならばと調教師は油断していた。まさか馬自身がド派手にかまそうなんて考えているとは思わないであろう。
プレセンシアは思った。我がライバルたちがあれだけ人々の記憶に残るようなレースを展開していて自分があっさりと勝ってしまっていては誰もプレセンシアという存在を忘れてしまう。ここは自分をアピールしなければならないと。
しかし、今の自分とまともに戦える相手はこのレースには出てこない。勝って当たり前のレースである。
プレセンシアは考える。要はいかにして派手に勝つか、ということを。そんなことを考えるプレセンシアにマドロームやシュプリームはやや引きぎみである。
「普通に勝てばいいんじゃない。俺たちは結果としてああなっただけで最初から意図していた訳じゃないし。本番で本気でやりあえばいいだけのこと」
シュプリームの意見にマドロームも同調する。
「勝負なんて結果がすべて、内容なんて関係ない」
そんな二頭にプレセンシアはより闘志を燃やす。
「ここで本気になるなよ。本番まで持たないよ」
二頭はそう言って呆れる。
「いいや、私は勝ち方にもこだわりたい。ただ勝てばいいわけではない」
頑なにそれは自分の美学ともいえるとプレセンシアは語る。
しかし二頭は思う。今までのあんたの戦いはそんなに格好いいものではなかったよね。それを美学というか、と
それを感じたプレセンシアは大いに宣言する。
「これまでにない格好いい勝ち方を見せてやる」
二頭はただ呆れるだけだった




