見えだした光明
騎手はその大きな瞳を見つめたましばらく立っていた。やがて意を決したように騎乗の準備をする。
(「おい、何をする気だ。今日の調教はもう終わっているんだ」)
もちろん、そんな思いが通じるわけなく、騎手によって調教場に連れてこられた。
「おれはもう迷わない。俺にはこれしかないんだ。とことん付き合ってもらう」す
(「仕方ないなあ、納得するまで付き合ってやるよ」)
騎乗した騎手は調教(というより自分の騎乗勘を取り戻す)を開始した。
しかし、そう簡単にはブランクを埋めることはできない。直線ですら斜行してしまう。馬の癖でもあるがまっすぐ走らせるのも騎手の仕事である。
それでもかつては将来を期待されていただけあって二回目でどうにかまともに御せるようになっていた。
(「もう大丈夫そうだな、この調子で本番も頼む」)
乗る前は不安そうなる表情を浮かべていた騎手も今は納得の表情をしている。何かを掴んだようだ。
その頃、昼間は誰もいないはずの調教場で調教を行っているとトレセン各所に連絡がありちょっとした騒ぎになっていた。
許可なく勝手に調教をした騎手は調教師や助手、厩務員らにかなりの時間、説教されていたのはいうまでもない。