考えた末に
「本番前にやりあうのか。勘弁してほしいな」
イソダは心底そう思った。イソダにしてもエンドロールにしても出走の権利をとるための大事なレース、万全を期したつもりだった。だからこそマドロームと同じレースに出走することになり困惑したし、その胸中の大部分を不安が占めていた。それでもいまさら変更はできない。
「本番はここではない、今回は権利が取れればいいか」
と気持ちを切り替える。騎手ならば一戦一戦を勝ちにいくのが当然なのだが長い目でみれば目先の一勝にこだわる必要はない。イソダは先を見据える。
だがイソダがおかれた状況は容易にそれを許してはくれなさそうだ。地方競馬の凋落ぶりは誰が見てもあきらかであり、そこから抜け出すためには中央のレースに出走して勝ち続ける、そして注目を集めて集客に繋げる必要がある。前哨戦とはいえ前線勝利したレコンキスタやカレンナビジンは地方の希望として注目を浴びている。それに続く存在としてエンドロールも期待されている。負けるわけにはいかないのだ。地方と中央ではおかれている環境はあまりにも違いすぎる。気持ちを切り替えてみたもののはたして自分のこの判断をまわりは許してくれるだろうか。
問題はまだある。中央の大レースはほとんどが芝のレース、地方ほとんどダート、つまりは新設されたレース場以外では芝の調教ができないということ。それだけのハンデを抱えながらも戦わなければならない。だからこそ彼らは夢を見る。レコンキスタやカレンナビジン、そしてエンドロールは彼らに夢を見させてくれる存在であると期待を一新に浴びている。イソダ自身その期待に応えたいと思っている。思いは同じである。また期待に応えなれなかった場合期待は失望に変わることをイソダは理解していた。しかしここで無理をするわけにはいかない。そのジレンマにイソダは悩ませ続ける。誰にも相談できないまま
イソダはひたすら調教を続ける。悩み続けたところで答えは出ない。無情にも時は何事もないように淡々と流れていく。依然イソダは答えを出せないままであった。
レース場に向かう前にエンドロールと顔を会わせたイソダはひとつの結論を出した。
「何も考えない」
色々と考えるから悩む、ならば考えるのをやめよう。そう考えたのだ。そう結論付けたイソダの表情は何か憑き物がとれたかのようにすっきりしていた。それをみたエンドロールが一瞬笑顔を見せたような気がした。
「ゴタゴタ考えるな、考えたところではじまってしまえばなにもかも吹き飛んでしまうさ」
そう言っているようだった




