ただ何となく
出走全馬がゴールしてからどれだけの時間がたっただろうか。そんなに長い時間ではない。しかしルシエールとエンドウの二人にとってはそれはとてつもなく長く感じられた時間であった。写真判定の結果はなかなか出ない。周りがざわつき始めていたがルシファーにはもはや結果はどうでもいいように思えた。勝負の世界に身をおく以上勝つことは当たり前である。が、彼自身不思議に思うほど気持ちは落ち着いていた。何故なら彼は負けを確信していたから。普通ならこんな際どい勝負で負けたならば悔しいはず、しかし彼は少しの悔しさも感じなかった。
「久しぶりだな、こんな感覚」
彼は思った。回りから見れば際どい勝負、しかし本人にしかわからない微妙な感覚、それがエンドウとレコンキンタの勝利を確信させていた。
「戦う前から俺は負けていたのかもしれない。そう思えば悔しさもわかないか」
彼が思った通り通り勝ったのはレコンキンタのほう、喜びにわくレコンキンタの陣営であるがエンドウ自身はどうも納得のいかないような表情を浮かべていた。
「今日はこのぐらいにしておいてやる」
軽い冗談のつもりでルシエールはエンドウに言った。一方の言われたほうのエンドウはキョトンとした表情を浮かべて戸惑っていた。
「何を言っているんだこの人は」
エンドウは真意を図りかねていた。こんなことを言うような人ではなかったはず、何がどうしたのかと。
ただルシエール本人ですらどうしてこんなことを言ったのか不思議に思っていた。
「一体俺は何をどうしたいのか」
どこか心をやんでしまったのかとルシエールはもう今日は何もかも忘れてさっさと寝よう。そう考えて自分の部屋に帰っていったのだった。
僅差であろうと大差であろうと勝ちは勝ち、レコンキンタは一躍クラシック候補に名乗りを挙げた。こうしてこの年のクラシック戦線は有力馬が次々と現れていく展開になっていく。やがてそれはマドロームを含め壮絶な展開になっていくことが予想された。その事は本人達が一番理解していた。だからだろうかあの一戦以来各陣営の調教はかなり熱を帯びていく。周りが本番前につぶれてしまわないかと心配するほどに。けれどそんなことを言っている場合ではないと、レコンキンタはこの先とてつもなく驚異になると誰もが感じていた。こうした状況のなかクラシック出走を確実にするためマドロームは出走する。確実に勝てるレースを選んだはずだった。しかしそこにはエンドロールも出走してきた。彼らは本番を前に再び対戦することとなった。




