ゴール前
ここを好機とみて各馬は一斉に動く。だからといってオオマキに焦りは感じられない。焦りはミスを生むことをエンドウは前任のオオマキから学んだ。平常心を保ちながら仕掛けるタイミングを計っていた。だが、彼は突如違和感を抱く。なにかがおかしいと。 実は後方の各馬が動いたときルシエールとシュプリームは一瞬歩調を合わせるかのように仕掛けようとした。その時にルシエールは前方のレコンキンタとの差が僅かに縮まっていたことに気づいた。ほんの一瞬、しかもぐうぜんではあるが。そこでルシエールは自分が感じていた違和感の正体に気づいた。それで逆にエンドウにこの違和感を味あわせてやろうと考えた。
自分の作戦が気づかれたとは思わないエンドウはこの違和感に対して不快な気持ちを露にする。この違和感を振り払おうと不意に大声で言葉にならないことをさけんだ。この様子をルシエールははっきりと目でとらえた。この瞬間エンドウの作戦は完全に崩壊した。冷静さを失ったエンドウは3コーナーの出口辺りで一発鞭を入れレコンキンタにスパートするよう促す。スパートをかけるのが早いように思えたが冷静さを欠いていたとはいえエンドウはレコンキンタならここからでも充分に持つとの判断である。それを見たルシエールもスパートをかけるのかと思われたがそこは名手の判断、はや仕掛けはしない。直線勝負だと十分なためをつくる。そのため後方集団にシュプリームが呑み込まれようとしていても冷静であった。そして最終コーナーをすぎ直線に入ったところで大外に持ち出しレコンキスタを追う。
仕掛けるタイミングが少々早かったように思えたレコンキスタであったがエンドウが見込んだとおりスピードは衰えない。それどころか後続を引き離そうとする勢いであった。しかしただ一頭レコンキスタを猛追するものがいた。シュプリームである。二頭の差はどんどん縮まっていき遂に馬体を合わせるまでになった。観客は大いに沸いた。ルシエールは初めからこの展開をねらっていたのではないかと思わせるほどに観客には完璧なレース運びに思えた。がこうなったのは偶然である。エンドウもルシエールもこんな展開は望んでいなかった。もう二人の間に駆け引きは存在しない。相手より先にゴールするだけである。二人による力と力のぶつかり合いは両馬に実力以上の力を与えた。死力を尽くしたちゃん二頭と二人はお互いに譲り合うこともなくほぼ同時にゴールに飛び込んだのだった。コースレコードのおまけ付きで




