乗り代わりの影響②
ルシエールは妙な違和感を感じていた。それは本馬場入場してからゲートに入ったいまでも消えなかった。何かしらの不安を抱えたままレースはスタートした。
ゲートが開いた瞬間絶好のスタートをきったシュプリームは勢いそのままに後続を引き離し独走しようとする。が、そうはさせじとレコンキンタが馬体をあわせにくる。ルシエールはここで無理をすることはないとペースを落としレコンキンタを先に行かせる。レコンキンタはそれでもそのままのペースで向こう正面の直線を駆け抜けていく。その後をやや離れて後を追うシュプリームとルシエール、さらに何馬身か離れて後方集団を形成する他馬たち。後方の馬たちは4コーナー手前で前の二頭がバテるとみてあえて後方待機策をとっているのだろうとルシエールは推測する。しかし、レース前から感じている違和感はそうではないと訴えているようだった。自分が感じているのとは違う違和感を彼らもまた感じているのだろうか。余計な考えが彼の思考の中に潜り込んでいる。その事が彼の判断を微妙に狂わしていく。
先頭を走るレコンキンタとの差が縮まっているように感じたルシエールはレコンキンタがペースを落として一息入れたのだと考えた。ならばとルシエールはシュプリームにレコンキンタと馬体をあわせるようにと指示をだした。ペースを落とさせずバテさせようと考えたからである。だがルシエールはこの時自分が判断ミスをしていたことに気づいていなかった。この瞬間にオオマキが仕掛けた作戦に嵌まっていたことにすら気づいていなかった。
さて一方のエンドウは後ろを気にはしていなかった。自分が考えたレースプランを確実に実行することだけを考えていた。その集中力が良い方向に作用した。ずっと同じペースでラップを刻んでるように見せかけて本人にしかわからないぐらいに微妙にペースをかえている。それに気づかない他の騎手たちは何かしらの違和感を感じていることだろう。だがそれはこちらにも悪影響を及ぼす。気づかれないようにするために繊細なコントロールが必要で自分自身の心身の消耗がいつも以上に激しい。レコンキンタ自身にも精神的なダメージを与えかねない。ゴールまで持ってくれればいいが、と不安を抱えながらも今のところ作戦はうまくいっている。大丈夫だ、と自らの不安をかき消すように集中力を保とうと気を引き締める。第三コーナーを過ぎ4コーナーに差し掛かるころレースは動き始める。後方待機策をとっていた馬たちが一斉に動き出した。




