乗り代わりの影響
予選を鮮やかに勝ったカレンナビジンは一気に有力馬の一角に躍り出た。ミヤナカにしてみれば自分達に注目が集まることは喜ばしい事であった。しかし、その一方でその雰囲気に呑まれることを危惧する向きもあった。
「ここまでは行けるんだよ。問題はこの先なんだよ。わかっているか? 予選と本番は別物なんだよ。このままだと勝てないぞ。しっかりと気持ちを保っておけ」
イソダは経験者なりのアドバイスをミヤナカに送るが当の本人はあまりピンときていないようだった。
「あれで通用することがわかった。問題ないでしょう
とやや自信過剰のようである。
「仕方ないか。こればかりは経験してみないと」
イソダは半ば諦めたように呟く。若さというのはとてつもない武器にもなるがその一方で周りに呑み込まれていく危うさも持ち合わせている。かつてはイソダもそれを味わっていた。だからこそミヤナカの今後を心配しているのである。そんな心配を時間は気に掛けない。
オオマキが失踪した。そんな情報が競馬関係者の間を駆け回った。
この時期に何を考えているんだ、と周りは大騒ぎになった。そんななかある男は笑いたい気持ちを押し込めて思った。しょせんあの日とはそれだけの騎手だったと。名馬となりうる存在を無駄に埋もれさせただけのしがない騎手だと。
そして新たにレコンキンタの主戦騎手になった男、エンドウはレコンキンタに新たなる歴史を刻めさせるため相棒とともに中央に再び参戦してきた。
年明け初戦となるシュプリームはレコンキンタに対し何の印象も抱かなかった。どこにでもいるその他大勢の馬の一頭でしかなかった。
レース当日になってもその後印象は変わらなかった。いぜんと代わった点は騎手以外みうけなれなかったからである。しかし騎手ルシエールは何かしらの違和感を感じていた。何か言葉では言い表せられないいつもと違う感じていたを感じていた。
「あの騎手か」
ルシエールはその原因は乗り代わった騎手エンドウにあるとみていた。エンドウ自身は地方においても地方においても目立った成績を挙げていたわけではない。だがルシエールはエンドウとレコンキンタに対し言い様のない雰囲気を感じていた。
パドックにて騎乗馬に乗る直前ルシエールはエンドウから声をかけられる。
「お手柔らかに」
どうってことない挨拶だがルシエールはその言葉にエンドウがかなり自信過を持っていることを感じた。
「調子に乗らせるわけにはいかないな。ここで完膚なきまでに叩いておくか」
普段から冷静なルシエールにしては珍しく気持ちが高ぶっていく。それがレース展開に微妙に影響していく。




