新たなる挑戦者
次世代へ血を繋ぐこと無くこの世を去ったビロードドレープを悼む時間も与えないかのように残酷にも時間はすぎてゆく。しかし偉大な先輩の功績を受け継がんと名乗りを上げるものが出てくる。彼女たちは明日のスターを夢見てしのぎを削る。それは中央だけでなく地方からも同じであった。エンドロールの一連の活躍に触発されたのか中央へ挑戦するものがまた現れた。今度は牝馬である。その名をカレンナビジン、かつて地方から中央へ移籍し、当時の牝馬三冠馬に真っ向勝負を挑んだ白馬シロキビジンの娘である。彼女自身は白毛を受け継がなかったが母が成し遂げなかった中央G1勝利を成し遂げるべく牝馬三冠の第一段チェリーカップの予選若姫賞にエントリーしていた。
「あなたの分まで走ってきます。必ず勝ちます」
そう力強く宣言したのは女性騎手ミヤナカ、中央では女性騎手は一人だけだが地方では五人ほど在籍している。
「お嬢よ。あっちは自分が思うほど甘くないぞ。あんな化け物みたいなのがうようよいるぞ」
そう言うのはイソダ騎手、アブソリートの化け物じみた走りを見せつけられたうえでの発言である。
「あんなのはたまたまでしょ。毎回毎回あんな走り方できるわけないでしょ」
「いやはや若いってのいいな。恐れを知らないっていうのは一種の武器だね。いっちょやってこい。応援しているぞ」
今や地方を代表する騎手となったイソダのエールを受けてミヤナカとカレンナビジンはいざ中央へ乗り込んでいくのだった。
レース当日土曜日の予選にも関わらず競馬場は観客で賑わっていた。またまた地方からの有力馬の登場、牝馬と女性騎手の組み合わせということもあり結構な人気になっていた。おくりこんだ地方側の思惑はまずはうまくいっていた。エンドロールやレコンキンタに続く地方からの挑戦者は先の二頭よりも華があった。彼女自身のきれいな栗毛の馬体はそれだけでも注目を集めたがなおかつ母親のエピソードも観客の心に響いていた。
本馬場に入場してきた可憐な挑戦者に観客は温かい拍手を送る。だがミヤナカにとってはあまり気持ちのいいものではなかった。完全に彼女達はお客様扱いである。おくりこんだ地方側にしても客寄せパンダとしか思っていなかった。勝つことを期待されていないことにミヤナカは逆に奮起した。絶対に勝ってやると。それはやや浮わついていたミヤナカ自身の気持ちを引き締めていい感じの力具合になっていく。
やがて出走時間になり、レースがスタートする。ミヤナカの思いがカレンナビジンに伝わったのか彼女は絶好のスタートを決める。そのまま加速していくカレンナビジンは一気に後続を引き離しそのまま減速せず3コーナーに到達する。まだ充分なリードを保っていたのでペースを緩めようとしたがカレンナビジン自身はまだまだいけるかのようだったのでそのままのペースで四コーナーから直線に入る。後続がついてこれないのを確認したミヤナカはあえて追うようなことはせず持ったままでカレンナビジンをゴールに導く。誰もが予想しなかった鮮やかな逃げ切りである。こうして彼女達は一躍クラシック戦線の有力馬として名乗りをあげたのだった




