何が起こったのか
ウラタは今おかれている状況を理解して呆然と駆け抜けていく馬たちを見ていた。故障でもないのに競争中にレースを止めるなんてことは競走馬としてあり得ない。スタンドでその様子を見ていたタカダもまた何があったのか呆然としていた。しかし、すべての出走馬が通りすぎた後、アブソリートは再び走り出した。タカダはウラタが何か余計なことをしたのかと疑ったが騎乗している当のウラタですらアブソリートが何がしたいのか理解できていなかった。ただ走り出したことでホッとしていた。ただここからだと到底先頭でゴールすることなどできない。ウラタはレースを諦めただ無事にゴールすることだけを考えるようになった。そんなウラタの思いを知ってか知らずかアブソリートはどんどん加速していく。たちまちのうちに最後方の馬に追い付くとあっさりと抜き去る。後ろの方でそんなことが起こっていることを知らずにエンドロールは３コーナーから４コーナーに差し掛かろうとしている段階で三頭のレコンキスタを抜きにかかる。ここにきてようやくオオマキは腹をくくった。
「このまま逃げ切るぞ」
そう叫んで早めに鞭を入れる。それに反応してレコンキスタはスパートをかけるがエンドロールは鞭を入れられることもなくそれに対応して馬体を合わせにかかる。この段階においてはエンドロールの方に余力が残っておりさっさと追い抜いて勝負を決めるように思えた。だが馬体を合わせた時、イソダはオオマキに向かって
「お前が鞍上では馬がかわいそうだ。実力の半分も出せていない。さっさと乗り変われ」
と叫んだ。
この事がオオマキの勝負根性に火をつけた。
もう余力が残ってなさそうなレコンキスタにもう一回鞭を入れ更なるスパートをほどこす。それにこたえたレコンキスタは抜きにかかったエンドロールを差し替えす。
イソダはこの展開を望んでいた。観客たちも望んでいたこの展開を。オオマキを奮起させるためにあえて叫んだのだった。そのもくろみはあたり、二頭は馬体を合わせたまま４コーナーから直線にはいった。二頭のマッチレースになり、自分たちがもっとも望む展開になったことで観客たちのボルテージは一気にか高まる。歓声と怒号が渦巻くスタンド前を二頭は馬体を合わせたまま駆け抜けていく。だがこの時、観客たちは信じられない光景を目撃する。はるか最後方にいたはずのアブソリートが二頭はのすぐ後ろにいたのだ。。そしてマッチレースを繰り広げる二頭の事など眼中にないかのようにあっさりと抜き去りゴール版を駆け抜けていく光景を。その場にいた誰もが、鞍上のウラタでさえ一体何が起こったのか一瞬理解できないでいた。スタンドは静まり返ってしまった。
